エンジニアからプロ棋士へ――どん底から将棋界を変えた男の奇跡
――逆にサラリーマンの経験がいま活かされていることは?
瀬川:規則正しい生活が送れるようになったことですね。棋士というのは、結果さえ出せればいいので、対局以外は自由。すべて自分でスケジュールを決めないといけないんですが、会社員生活のおかげで、朝起きて、朝ドラを見る習慣が身につきました(笑)。
――プロ編入試験を受けているとき、一番大変だったことはなんですか?
瀬川:やっぱりプレッシャーがすごくありましたね。これだけみんなに応援してもらっていると、勝たなきゃいけないという気持ちをつねに抱えていていたので。でも、将棋は勉強して急に強くなるものでもないので、精神状態をいい状態に保って、リラックスすることを考えるようにしていました。
外の世界を知ったからこそ得たいまの幸せ
――そういう思いをしてでも、もう一度プロを目指そうと思った理由を教えてください。
瀬川:一番の理由は、やっぱり将棋が好きだったということ。それから、応援してくれる人が現れたことで真剣にプロへの道に再挑戦することを考えるようになりました。あとは、僕の父が「好きなことを仕事にしろ」とよく言っていたということもありますね。
――外の世界を一度見たことでそういう思いが強まったところもありましたか?
瀬川:奨励会にいたとき、うまくいっていればそのまま棋士になっていたと思いますが、21歳のときに、「将棋しか知らない人生が本当に幸せなのかな?」と思ったこともありました。そんな風に疑問を抱いていたこともあったので、図らずもサラリーマンになりましたが、そのおかげで「純粋に好きなことを仕事にできたらこんな幸せなことはないな」と改めて気づかされましたね。
――では、そのときの経験があったからこそ、いまがあるんですね。
瀬川:そうですね。もしストレートにプロになっていたら、「ほかの世界も見てみたかった」と思いながら棋士をやっていたかもしれないので。だから、いまでもプロになれた幸せと充実感を持ってやれているのかもしれないです。結果論ではありますが、違うこともできたのはよかったと思うことにしています。