プーチンは「復縁を迫るDV夫」。今さら聞けない“ウクライナ情勢”をゼロから解説
日本にとっても他人事ではない

ウラジミール・プーチン大統領 MOSCOW, RUSSIA – DEC 23, 2016: The President of the Russian Federation Vladimir Vladimirovich Putin ID 83599002 © Igor Dolgov
――日本はどんな関わり方をしていますか?
小泉:他の国々はウクライナに武器を送っています。一方、日本は武器こそ送らないものの、ヘルメットや防弾チョッキを自衛隊の輸送機で届けています。紛争当事国の一方に軍用物資を提供するというのは、おそらく初めてのことではないでしょうか。ウクライナで起きている戦争が、日本にとって他人事ではないという危機があるから、今回は日本側の対応も真剣なのだと思います。
――どういった意味で他人事ではないのですか?
小泉:日本とウクライナは「ロシアに領土を占拠されている」という似た問題を抱えているんです。ウクライナはクリミア半島をロシアに占拠されています。日本は、ご存知の通り北方四島ですよね。占領された当時、北方四島には1万6000人もの人が住んでいましたし、国後島と択捉島は広さもあります。
択捉島は本州・北海道・九州・四国に次いで5番目に大きな島なんですよ。沖縄よりも大きいんです。それだけの大きさの領土を、ロシアにずっと占拠され続けてきている。
在日アメリカ軍の基地が戦闘の最前線に
――ロシアと日本の戦争が始まる可能性があるということですか?
小泉:それはないかもしれませんが、ほんの2か月前までは、世界は「ロシアが本当に侵略を始める」とは思っていませんでした。けれども、これが現実になってしまうと、中国が台湾に侵略戦争を仕掛けることはないとは言い切れないようになってきます。
中国と台湾の有事が起これば、アメリカ軍が出て行きます。これが意味することは、日本国内にあるアメリカ軍の基地が戦闘の最前線になり、日本国内の米軍基地に、中国のミサイルが飛んでくるということなんですよね。
――今回日本が何もしないでいると、日本有事の時に西側諸国が何もしてくれないかもしれないと言うことですね。
小泉:そうです。ですから今回は、日本政府も本腰を入れてロシアやベラルーシへの経済制裁もやっていますよ。
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ロシアの本音と建前に加えて、NATOという存在。さらに、現在の日本の立場を押さえておけば、今後このニュースに触れた時の見え方がきっと変わるはずだ。「わからない」という理由で、今回の戦争に無関心になっていた方が、この記事でひとりでも関心を持っていただけるようになればと願う。
<取材・文/Mr.tsubaking 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>
【小泉 悠】
1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。外務省専門分析員、未来工学研究所研究員、国立国会図書館非常勤調査員などを経て2019年から東京大学先端科学技術研究センター特任助教。ロシアの軍事研究が専門。2019年、『「帝国」ロシアの地政学「勢力圏」で読むユーラシア戦略』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『プーチンの国家戦略』『軍事大国ロシア』、訳書にD.トレーニン『ロシア新戦略』など