豊作だった「2021年の邦画」4選。役所広司、長澤まさみら熱演の傑作も
3)『騙し絵の牙』:パワーゲームの裏で燃える魂
大手出版社「薫風社」のカルチャー雑誌『トリニティ』は出版不況のあおりを受けて廃刊の危機に陥っている。そこに現れた新編集長の速水(大泉洋)から飛び出る奇策の嵐。
会社の経営陣たちによるさまざまな思惑が錯綜するパワーゲームも絡みながら、雑誌存続をかけた騙し合いの駆け引きが描かれるのが『騙し絵の牙』だ。
まずもって騙されてはいけないのが、大泉洋を中心に据えたこの映画のポスター。この物語の真の主人公は速水ではなく、実は松岡茉優演じる新人編集者・高野だということは先に言っておいていいだろう。
策士であり、天才編集者である速水の想像のつかない行動に翻弄されながらも、理知的で信念に満ちた高野がどう対峙していくのかに注目したい。
4)『猿楽町で会いましょう』:夢追い人のピュアじゃない恋愛
『花束みたいな恋をした』(土井裕泰監督)や『街の上で』(今泉力哉監督)といった20代の恋愛を描いた優れた映画が乱立した2021年に、これまた見逃すには惜しい作品がある。『猿楽町で会いましょう』だ。
野心はあるも結果が出ないフォトグラファー・小山田(金子大地)は、編集者の紹介で読者モデルのユカ(石川瑠華)と出会い、何度か撮影するうちに惹かれあっていく。先が見えない若者同士の、孤独を埋め合うピュアな恋愛は痛々しくも微笑ましい。しかし、この映画は実のところ全くピュアではなくて、大きな“秘密”が徐々に暴かれていく。
ある大きな展開を持っている映画の場合、それは無理があるでしょ……と引いてしまうときもある。そこに説得力を与えるもののひとつは、やはり役者の演技力にあるだろう。
この映画で特に素晴らしいのがヒロインを演じた石川瑠華だ。2021年は『うみべの女の子』(ウエダアツシ監督)でも、原作漫画から飛び出てきたようなキャラクターを演じて強烈な存在感を残した彼女。特異なのは表情の多彩さにあると思うが、本作でもコロコロ変わる彼女の相貌が、アクロバティックなストーリーを牽引していた。
どんでん返しが秀逸な映画というよりも、若者特有の、急展開する人生におけるその時々の表情を切り取ることが巧い映画である点で、強くおすすめしたい。
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それぞれにジャンルも上映館数の規模感も異なる4つの日本映画。こうして振り返ってみると改めて、コロナ禍での公開延期などもあり、傑作たちが集中した1年だったように思う。2022年もまた、面白い映画に出会えますように。
<TEXT/原航平>