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LINE記録などから「ソニー駐在員の突然死」を労災認定。背景を弁護士に聞く

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遡ったのは6か月前の記録まで

――ちなみに、集めた資料はどれくらい前まで遡りましたか?

白神:厚生労働省の労災認定基準に「発症前おおむね6か月間を評価期間とする」という基準が設けられていますので、遡ったのは6か月前までですね。

――6か月前までという期間は妥当なのでしょうか?

白神:そもそも6か月前まで遡るようになったのは、家族の過労死を経験した遺族の方が声をあげたのがきっかけです。それまでは、亡くなる数日前、数週間前でしか評価基準にならない状況でした。そこから、弁護士や支援者とともに裁判を起こし続けて医学的知見の蓄積と世論の高まりにより、2001年12月に認定基準の改正があり、6か月前まで遡るようになりました。

 ただ、長期間の過重労働によって“蓄積疲労”状態となり様々な病気を起こすというメカニズムを踏まえても、「6か月前まででも足りないのでは?」という批判の声があがっており、これは当然だと思います。個人的に、半年に限ることなく個々の労働実態を踏まえて柔軟に判断すべきだと思います。

隠ぺい・改ざんを防ぐための証拠保全手続き

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※イメージです

――今回証拠となった資料は、すべて私用のスマホやパソコン・手帳やスケジュール表などから得たものだったと聞いています。会社用の記録や資料は、隠ぺいされる恐れもあったと思うのですが……。

白神:私たち過労死問題を専門とする弁護士は、事前に「証拠保全手続き」というのを裁判所に申し立てることが多いです。証拠保全手続きというのは、扮装が起きる可能性がある事案に対して、証拠隠滅が起きないようにする手続きのことです。書式に則って裁判所の審査をクリアできれば、企業側が保有している証拠資料の保全が可能になります。抜き打ちなので、当日の1時間前にいきなり連絡をして保全をおこないます。

 ただ、あくまで「保全」なので資料をこちらが獲得することはできません。写真やデータとして「写し」を作成して、その「写し」を裁判所に保管してもらうという仕組みです。今回の事案も、証拠保全手続きをおこない、パソコン内の記録を出していただきました。

――では、今回はたまたま記録が残っていただけで、保全手続きをしないと改ざんや隠ぺいもあり得るということでしょうか?

白神:そうですね。本来、労働時間に関する記録には保存年限がしっかり決められているので、隠ぺいはできないはずなんですが、データの改ざん・破棄はやろうと思えばできてしまいます。そのような事態に陥らないよう、証拠保全手続きを活用することが多いのです。

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