先輩の「何が食べたいんだ?」に頭真っ白!よしもと芸人が語る“後輩飯の悩み”
職場の先輩が、上司が、飯を奢ってくれる。うれしい反面、考えるべきことも多い。奢った側の自慢やボヤキはよく聞くけど、奢られる側にだって葛藤はあるのだ。お笑いコンビ「そいつどいつ」の市川刺身(@abzooou)が、芸人の先輩との経験から「奢られる側の感謝と苦悩」を訴え、幸せな「後輩飯」の極意を探る連載スタートです。
先輩が後輩に奢るという風習
皆さん! はじめまして!
僕は吉本興業で「そいつどいつ」というコンビで活動している「市川刺身」という芸歴9年目の芸人です。念のために言っておきます。芸名です。本名ではないです。皆さんからは刺身と呼んでいただいています。好きな食べ物は蓮根です。
僕は大学を卒業してNSCという吉本のお笑い芸人養成所に入って幼い頃からの夢だった芸人になりました。僕の所属する吉本興業では芸歴が上の先輩が後輩と、ご飯に行ったら奢るという風習があります。リアルに何百回も現在進行形で、ごちそうしていただいています。
先輩に、ごちそうしていただくとたまに事件が起こります。先輩の頼んだ料理が来るのが遅くて食べ終わりのタイミングを合わせないとダメな気がして、鯖の味噌煮を100回ぐらい咀嚼して食べたり。先輩と一緒に日払いのアルバイトをして、終わりでバイトした意味が無くなる金額ごちそうしてもらって素直に食べ物が喉を通らなくなったり。先輩が寝ちゃったり。
色々ありますが今回は僕が優柔不断すぎて本当に食べたいものを伝えられなかった話です。
「刺身! 飯行くぞ!」
「ゆったり感」の中村さんという先輩の、ちょっとした手伝いをさせてもらった。中村さんは僕の9年先輩。9年も先輩だけど優しくて1年目の芸人とかでも顔を覚えて分け隔てなく接してくれる先輩だ。
先日楽屋で僕が相方と軽く揉めて話合いをしていたら通りかかった中村さんが「大丈夫か? 解散すんのか〜?」と会話に入ってきて雰囲気を和やかにしてくれた。何かあったら助けてくれる、そんで冗談を言って大きな口を開けガハガハ笑う。
もし僕が街で怖い人に絡まれてるのを発見したら助けに来てくれて、怖い人が去ったら助けるときに出来た傷を僕にしっかり見せながら「痛えな〜! お前なんか助けなきゃよかったよ!」って言うと思う。中村さんはそういうアニキ的先輩だ。
こいつら全員に飯奢ったよ。
やってられねぇよ。 pic.twitter.com/hbQiriwwUh— ゆったり感中村 (@yutta0nakamura) February 23, 2021
お手伝いが終わると中村さんからの号令がかかる。
「刺身!飯行くぞ!」
あぁ、なんて素敵な響きなんだろう。2人で渋谷の街を歩き出す。
「何にすっかな〜」。外は小雨がパラついていたけど、これから食事が待っている僕は無敵状態なので傘を開かず持ち手で肩をマッサージしながら笑顔全開で歩いた。
300mほど歩いた所で中村さんが口を開いた。「刺身は何が食べたいんだ?」
この時、僕は重大なミスに気付いた。自分が何を食べたいか決めておくのを忘れていたのだ……。