「男社会のお伽噺」から再び黄金期へ。「島耕作」は今こそ読むべき作品だ/常見陽平
作者・弘兼憲史さんとの苦い思い出
筆者にとって、島耕作シリーズは『ゴルゴ13』と並ぶ座右の書である。島耕作に限っていえば、雑誌『イブニング』で連載していた『ヤング島耕作』もあったが、今なお続く雑誌『モーニング』での連載に再び一本化されてから、何度目かの黄金期を迎えた印象もある。
70代の作者・弘兼憲史さんが常に現代を映しながら、描き続けていることはもっと称賛されるべきだ。かつて「男社会漫画」と批判されていた当時とは、作風が変わっているのも特筆するべき点である。
実は、弘兼さんとは過去にお会いする機会があった。島耕作の学生時代を描いた『学生 島耕作』の連載開始当時、仕事の繋がりで「弘兼さんの忘年会へ行きませんか?」とお誘いを受けたのだ。忘れられない夜となった。
もっとも、島耕作とゴルゴ13には苦言を呈さなくてはならない点もある。「仕事を選ばなすぎ」なのが両作品の共通点だ。あまりにも、企業とコラボをしすぎており、キャラクターがぶれてしまっているのが難点だ。いつか実現するのであれば、弘兼さんと『半沢直樹』などで知られる池井戸潤さんの対談で司会をしたい。お二人の描く作品にはいずれも「会社っていいな」という思いが込められている。
ビジネス漫画の世界には“現実”がある
このサイトを見ている20代の読者に、島耕作シリーズをおすすめするのは難しい。やはり、作品ごとに時代が異なるからだ。
ただ、世代の近いところであれば、やはり『ヤング島耕作』には親近感をおぼえられるだろう。エンターテインメント作品や物語としての面白さも考えると『課長 島耕作』や『部長 島耕作』もおすすめで、展開のバランスもよく、ビジネスの場面で必要な知識も学べるはずだ。
なお、やや余談だが、広くビジネスパーソンにおすすめしたい漫画としては、出版社の裏側を描いた安野モヨコさんの『働きマン』をおすすめする。「仕事とは何か」を私たちに訴えかけてくる。新聞社を舞台にしたサレンダー橋本の『働かざる者たち』も、花形の記者ではなく、印刷やシステム担当者など裏側を描いた名作だ。広告代理店で働く人物たちを描いた『左利きのエレン』や、漫画の世界を描く『バクマン』も、勝負の世界で生きる人びとの悲哀を映し出している。
フィクションだとあなどるなかれ。島耕作シリーズをはじめ、漫画の世界には作者の綿密な取材によって明かされる“現実”がある。登場人物のドラマには、学ぶべきことがたくさんあるのだ。
<TEXT/千葉商科大学国際教養学部准教授 常見陽平>