グラビア撮影で沖縄に。若手編集者がホテルの予約を忘れて…想定外の事態に
ゼロからロケ地を選び直すことに
ハイシーズンの沖縄離島、さらに唯一のホテルとなれば当然部屋は埋まっている。交渉空しく部屋を用意することの出来なかった伊藤さんが取った次の手は、全力で同行者に頭を下げることでした。
「スイートルームで撮影する予定だったので、ページ構成から変える必要がありました。さらに宿泊用の部屋も抑えられていなかったので、女優のマネージャーやクルーが島内の民宿を当たり、僕はカメラマンとカット割りを詰める……という地獄のような状況でしたね。
ですが、いかんせんロケ地が定まっていないので、アイデアもまとまらない……泊まる部屋も見つからない。何ひとつ問題がクリアにならない中、日が傾く前に撮れるだけ撮ってしまおうということになり、ひとまず、みんなで車へと乗り込みました。誰も口には出しませんでしたが、相当不安だったと思います」
最大のピンチに「苦肉の策」が功を奏す
雑誌に穴をあけるわけにはいかない……失敗に落ち込む余裕も持てないほど、不安や焦燥感に駆られる中、伊藤さんは己の勘を頼りに島内へ車を走らせました。そして、山道を進んでいった先で、偶然人気のない入り江を見つけたのです。
「ここだ! と思いました。恐らく全員同じ気持ちだったと思います。もちろん許可取りなんかしていませんから、ゲリラです。ヘアメイクと衣装が急いで女優さんの支度をし、カメラマンと構図を詰めて彩光を測る……全員が撮影に向けて、職務を越えて一体となっていました」
撮影中は人が来ないようひたすら祈り続けていたという伊藤さん。この時のグラビアページは、トラブルがあったことを微塵も感じさせないほど美しく仕上がり、誌面に掲載されたそうです。
あまりの出来事に当時の記憶は曖昧だという伊藤さん。それでも彼がこのインタビューに体験談を話せているのは、あまりに強烈な失敗談として周囲の人が語り継いでいるからだとか。
仕事の失敗は恥ずかしく、まして人に迷惑をかけたとあればトラウマになり得るもの……。しかし、忘れたい経験に限って、人の記憶に刻まれているものではないでしょうか。
<TEXT/七里美波 イラスト/パウロタスク(@paultaskart)>