元TBSアナウンサーが「戦争歴史の記録者」に。意外な転身のきっかけ
相手の話が矛盾することがあってもいい
オーラルヒストリーとは、研究のために関係者から直接話を聞き取り、記録としてまとめる口述歴史のことだ。
「アナウンサー時代からインタビューは好きでした。しかし、オーラルヒストリーは手法が全く異なります。何日にも渡って時間をたっぷりかけて、相手に寄り添いながら、生まれてから現在までの話を聞きます。時には話が矛盾することもありますが、それでもいいんです。意外な出来事が重要な意味を持つことも多いからです。証言をそのまま記録することに意味があるからです。私にとっては、今までやってきたことの延長線上にあり、インタビューを極める学問でもあることに興味を持ちました」
久保田さんは2017年からコロンビア大学修士課程に進学し 、主に戦争体験者の方から長時間にわたる聞き取りを行った。それと同時に広島市の被爆体験伝承者養成事業にも応募した。
「『被爆体験伝承者』は、1人の被爆者の証言を複数の人が伝承者として受け継ぐ取り組みです。これもまさにオーラルヒストリーです。ニューヨーク在住でしたが、Skypeを通じて広島平和記念資料館の研修に参加できることを知って応募し、2018年に帰国してからは広島に通ってミーティングを重ね、今年3月に被爆者の一人・笠岡貞江さんの証言の伝承者として認定されました」
「#ひろしまタイムライン」に参加して気づいたこと
しかし、伝承者としての役割に迷いを感じることもあった。
「笠岡さんの証言に沿って、私が代わりに被爆体験をお話しするのですが、だったら笠岡さんの証言ビデオを見たほうがいいわけです。私が話すことにどういう意味があるのか。まだ答えは出ていませんが、もしかしたら通訳のように当時の『文脈』を笠岡さんの証言に添えて伝えることなのではないかと考えが進みました。そのきっかけになったのが『#ひろしまタイムライン』です」
久保田さんが担当する大佐古一郎さんの7月4日ツイートでは「『疎開に行き過ぎはない』と岡山空襲を受けて記事にした際は、逃げることを正当化するなと特高と言い争いになった。それでもやはり言い続けたい。無駄死にするな」とつぶやかれている。
「大佐古さんの日記を解釈してまとめたものですが、当時の文脈は現在のような人命第一ではありません。だから『無駄死にするな』という言葉には、人命を大切にしたいという現代でも理解できる感覚に加えて、もしかすると大佐古さんは、空襲で殺されるよりも、生き残って戦争に勝つために身を捧げたほうがいいという考えすらあったのかもしれないなという想いも込めました」