経営者とうまく付き合う方法。花王がモデルの実名小説にヒントが
独裁は終焉を迎え「普通の会社」に
かと思うと花王の経営が傾いたと見て取った瞬間、理想で共鳴しあっていたはずの太田と決別し、谷という金儲けの天才を右腕にする。しかしこれも長くは続かず、義理の兄を迎え入れ谷と決別し、と思いきや……、というように人の入れ替わりが激しい。
人の入れ替わりだけではない。二代目・長瀬富郎は第二次世界大戦の時期には精神主義に目覚め、従業員に白装束で滝行を課すようになる。滝行を拒否した技術者とも衝突し、これだけが原因ではないが技術者のうち、会社を去るものも出てきた。
しかし、そんな彼にも時代の変化の波が押し寄せる。敗戦と財閥解体・経済民主化とともに、花王も会社を分割して独立した役員会が組織され、労働組合ができ、いわゆる「普通の会社」へと変化していったからである。
そうこうするうち、労働組合をおさえられなくなった二代目・富郎はついに役員名簿から姿を消した。
カリスマはいつまでも続かない
神がかり的な意思決定と怒涛のような人事とはいつの時代もカリスマ経営者の特徴である。だが、カリスマはいつまでも続くわけではない。
マックス・ウェーバーを引くまでもなく、ほぼすべての企業は、創業者・中興の祖によるカリスマ支配→血縁による伝統的支配→手続きによる合理的支配・官僚制へと移行していくからだ。
二代目・富郎にとっては戦後の民主化が会社を近代化・官僚制化させるきっかけだったが、現代では株式上場・公開や資本金増加による大会社指定などがそのきっかけになる。
会社は何らかの力によって人を引き寄せ続ける必要がある。従業員も、取引先も、顧客もすべて人である。多くの人間を惹きつけるからこそ経営が成り立つのである。カリスマは、人を引き寄せ経営を成り立たせる要素のひとつに過ぎない。