世界最大の宿泊予約サイト「Booking.com」に聞く旅行者ニーズ最前線。“若者の旅離れ”にどう向き合う?
2020年からのコロナ禍で、大きな打撃を受けた観光・旅行業界。
しかし、2023年5月8日からの「5類移行」を受け、再び旅行における需要回復が見込まれている。
長らく、自由な旅行が制限され、観光産業も軒並み痛手を被っていたわけだが、ようやく再生の兆しが見え始めていると言える。
こうしたなか、旅行者自身で宿泊先を手配できるのがOTA(オンライントラベルエージェント)サイト。なかでも、オランダ発の「Booking.com」は、アプリの月次アクティブユーザーが1億人を超え、さらに全世界の宿泊施設数は2,800万以上を掲載する世界最大の宿泊予約サイトだ。
今回はブッキング・ドットコム 東日本地区 統括部長のオリビア・ジョン氏に、コロナ前後で変わる観光事情やアフターコロナの旅行ニーズについて話を聞いた。
目次
デジタルという軸をぶれさせずにユーザー体験を追求してきた
1996年にオランダで創業したブッキング・ドットコム。
「すべての人に、世界をより身近に体験できる自由を」をビジョンに、インターネット黎明期から、オンラインによる宿泊予約サイトのBooking.comを運営してきた。
ホテルのみならず、ヴィラやペンション、アパートメント、キャンプ場など多種多様な宿泊施設をカバーし、より多くのユーザーに使ってもらえるように多言語化をいち早く進めてきた。
今ではサイト掲載の宿泊施設が世界最大となっており、世界70ヶ国以上に拠点を持つほどの巨大デジタルプラットフォーマーとして確固たる地位を築いている。
「デジタルプラットフォーマーとして利点を活かしながら、ユーザー視点での使いやすさや利便性を追求し成長し続けてきたこと、広告掲載を行わずにお客様のレビューを大切にしてきたこと。これらがサービスの信頼感につながり、ユーザー数を増やすことができた要因だと考えています。また、欧米やオーストラリアには長期で旅をする人が多く、そういった層に支持されたのもサービスの発展の礎となっています」(オリビア氏)
営業チームの地道な努力が日本でのサービス普及に貢献
こうした背景のなか、Booking.comが日本語化されたのは2005年から。
ブッキング・ドットコムの日本法人ができたのは2009年だったが、日本国内にはじゃらん、楽天トラベル、一休といった競合がひしめくなか、どのように認知度を広げてきたのか。
「その頃は、iPhoneが日本で急速に普及し始めたタイミングで、『スマホでインターネットを見る』という体験が少しずつ根付いていく時期でもあったため、時代背景にマッチしていたのもサービスが普及する一因になっていると考えています」
このような流れはもとより、「当時の営業チームが行った努力が身を結んだ」とオリビア氏は続ける。
「営業チームが地道に旅館やホテルへ足を運び、紙の契約書を取り交わしながら、1軒ずつ宿泊施設を増やしていったんです。まだ紙やFAXが当たり前だった頃でもあり、日本の商習慣に合わせた営業活動を行っていました。また、デジタル化が徐々に浸透していくのに沿って、一元管理ソフトで宿泊予約を管理する日本独自のホテルチェーンが増えていったことも、国内の宿泊施設の掲載数を伸ばす後押しとなりました」
さらに、モバイルアプリに最適化したUI/UXの追求も、ユーザー増加をもたらす取り組みとなり、現在でも全世界のユーザーのうち、6割がモバイルアプリからの予約になっているそうだ。
コロナ禍で気づいた国内需要のポテンシャル
そんななか、2020年から突如として始まったコロナ禍は、旅行事業者にとって大きな苦境だった。
これまでの日常が失われ、旅行すら行けない日々が続いたなか、Booking.comとしてはこの状況とどのように向き合ってきたのだろうか。
社員も在宅勤務に切り替わり、パートナーである宿泊施設とも対面で会えない時期が続くなか、「アフターコロナを見据えて、できることは何かを考えていた」とオリビア氏は述べる。
「オンラインで営業活動していくなかで、弊社が持っている販促ツールの普及に努めていました。モバイルアプリ限定でディスカウントが表示される機能や、サイトを訪れたユーザーに絞って広告を表示させる機能など、パートナーの販促強化に繋がるような提案を行い、ビジネスの基盤を整えてきたんです。
そのほか、政府が取り組んだ全国旅行支援にも参加し、コロナ禍においても国内旅行者向けにBooking.comの利用を訴求できるよう工夫しました。また、インバウンドのみならず、国内旅行される日本人のお客様にもしっかりとしたサービスをご提供できるための改めての基盤強化する取り組みをコロナ禍は進めていました」
これまで、国内の宿泊施設は、Booking.com経由で訪れる訪日外国人が多く、「インバウンドありきのビジネス」だと思われていたのが、全国旅行支援をきっかけに日本人客も掘り起こすことができ、それが「国内需要のポテンシャルがある」という気づきにつながったという。
日本国内の観光地は円安を機に旅行ニーズが増加
また、直近でも国内のデスティネーション(旅行先)は多くのユーザーから注目されているとのこと。
「Booking.comで検索される都市のうち東京は5位、大阪は27位、京都は52位でしたが、いずれも昨年対比で、実に4倍もの検索数になっています。今まで日本に行きたくても行けなかった外国の方が、円安をきっかけに渡航しやすい環境になったこと、そして安心、安全なイメージがある日本へ旅行したいというニーズが高まっているのが見てとれます。さらに、FIT(個人旅行者)の行き先も多様化していて、主要観光都市以外にも田舎の地域や温泉街に足を運ぶ外国人も増えているような状況です」
近年高まる「サステナブル・トラベル」への関心
とりわけ、SDGsに代表される持続可能な社会の実現のために「サステナブル・トラベル」の普及を、Booking.comとしても数年前から取り組んでいるという。
プラスチック使用量、廃棄物やエネルギー消費量の削減、地域コミュニティへの配慮など、サステナビリティ活動を行う宿泊施設は、プラットフォーム上でユーザーにアピールできる「バッチ」を設けている。
「環境に配慮し、地域社会に貢献するサステナブル・トラベルは、旅行者における意識の高まりに応じて、宿泊施設側もその受け皿になる必要があると捉えています。Booking.comとしてもサステナブル・トラベルの普及に向けて尽力していこうと考えています」
“若者の旅離れ”を解消し、もっと旅の魅力を伝えていきたい
今後の展望としては、「コロナ前から課題だった“若者の旅離れ”をなくし、もっと旅の魅力を伝えていきたい」とオリビア氏は話す。
日本は他国に比べると国内旅行派が多く、コロナが5類に変わっても、不安を拭えない理由から海外渡航を控える人も少なくない状況だという。
また、傾向として経済的に賢く旅行するという意向が見られ、財布の紐が固くなっているのも、日本の旅行者の特徴になっているそうだ。
「今年6月には元サッカー日本代表の槙野智章さんに、旅プロデューサーに就任いただき、プライベート一人旅に密着した動画を公開しました。常に夢を追いかける槙野さんの姿勢やマインドは、まさに旅へ出かけたくなる気持ちにさせ、旅行意欲を掻き立てると感じています。今後も旅を通して得られるかけがえのない体験や知見を、Booking.comで提供できるようにしていければと考えています」
旅先では、見知らぬ土地や景色に出会い、新たな発見につながることも少なくない。
行きたい地域や国を決め、旅路へと赴いてみてはいかがだろうか。
<取材・文・撮影/古田島大介>
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