井浦新、下積み時代の葛藤を語る「20代は迷って遠回りしてもいい、ただ…」
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』『キャタピラー』といった作品を残した鬼才・若松孝二監督の若かりし頃を舞台にした『止められるか、俺たちを』が10月13日より全国ロードショーとなります。
若松プロダクションに飛び込んだ、門脇麦さん演じる女性の視点を軸に、若者たちの青春を浮かび上がらせる本作は、若松プロ出身で『凶悪』『孤狼の血』などで邦画界をけん引する白石和彌監督がメガホンを取った話題作です。
物語の真ん中に大きな柱として立つ若松監督を演じるのは、主演作『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』など、晩年の若松作品全5本に出演した井浦新さん(44)。若松監督との出会いや監督への溢れる思い、歩んできた道、今の若者たちへのメッセージなどを語ってもらいました。
“若松監督への思い”にはカギを掛けておきました
――若松監督を知っている世代はもちろんですが、まったく知らない世代にも感じるものがある青春映画でした。井浦さんは、本作でご自身よりも若いときの若松監督を演じています。追体験した感想は?
井浦:幸せでした。僕自身が若松監督から直接聞いてきた若いころの出来事や思い出、ずっと変わらない監督の考え方、映画作りの在り方、表現とは何なのか、生きることはなんなのか、そういったさまざまなことが繋がる瞬間がありました。監督の著書に書かれていることとも繋がりました。
――演じられるにあたって、改めて読まれたのですか?
井浦:若松監督の『俺は手を汚す』という本は、僕のバイブルのひとつになっているんです。だから作品と作品の合間や、背筋を伸ばしたいときに、必ず読んでいます。そこにあったものがこの作品には全部詰まっていました。それに、晩年の監督が、息子や娘でもおかしくない若者たちに映画作りを教えてくれたり、食事に連れて行ったりしてくれた姿も、この作品には変わらずあります。
――井浦さんは、これまでにも若松監督への思いを語られてきました。あまりに強い思いというのは、演じるにあたっては邪魔になることはないのでしょうか?
井浦:僕の思いは、携わっている監督、スタッフ、役者のみなさんも知っていますし、ほかのみんなも同じ思いでした。そんななかで若松監督を僕が演じるということに、少しでも感傷的な部分を観る人に感じさせてしまうのは、要らない要素です。だから僕の監督への思いは一番奥のほうに締まって、カギを閉めておきました。ただ、憑依とかではなく、僕の中に今もいる監督が、勝手に外に溢れ出てくれたらいいなとは思って演じていました。
若松監督との出会いは自らかけた1本の電話
――本作の時代の熱量に、憧れる人もいると思います。
井浦:僕自身、憧れを持っている側でした。だから若松プロに駆け込んだんです。
――井浦さんから?
井浦:そうです。個人的に、あの時代に興味があったんです。監督との最初のお仕事は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』ですが、連合赤軍にまつわることは、僕も20代の頃から興味があって本を読み漁っていました。
そのなかで、若松監督の名前を何度も目にした。そして監督の作品を観たりして、すごい映画を作っている人なんだなと思っていた。そんなある日、「若松孝二に連合赤軍を撮らせたい」というチラシを見たんです。
――興味が湧きますね。
井浦:はい。若松監督が連赤を撮るだけで事件だなと思いました。そして、せっかく役者という仕事をやらせてもらっているんだから、この現場に立ち会えなかったら、絶対に後悔すると思って、そこに書いてあった電話番号にすぐに電話したんです。
――井浦さんご自身で?
井浦:自分で電話しました。「オーディションをしてください」と。その電話を取ったのが、若松監督でした。それまでの作品や監督、共演者の方たちとの出会いもみな大事なものでしたが、自分の価値観とかをぶっ壊されて、何も考えられなくなって、ただただ魂だけが現場にあるみたいな気持ちで夢中になった作品や役や監督との出会いというのは、若松監督の現場が初めてでした。