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ジョブズ死去、クックCEO就任…Appleの’10年代は「停滞期」だったか

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 2021年8月24日をもって、ティム・クックがAppleのCEOに就任してから10年となった。こう書くと、「そんなに前だっけ」という感じがする。プレゼンの達人として名を馳せたスティーブ・ジョブズの姿が、いまも鮮明に思い出されるからだ

ティム・クック

ティム・クック ©Featureflash

 クックがCEOに就いたきっかけは、大指導者ジョブズの健康問題であった。彼が亡くなったのは2011年10月5日で、これも10年前の秋ということになる。

 この10年間で、我々の身体のまわりには電子機器、いわゆるガジェットというやつらが増えに増えた。そして高度情報社会を迎えた現代は、「GAFA」と呼ばれる多国籍企業、すなわちGoogle、Apple、Facebook、Amazonという4社の天下である。そこで今回は、クック就任からの10年間に、ITの巨人たちが何を成し遂げてきたのかを問うてみたい。

クック最大の功績は…

 過去10年のApple製品を並べてみても、既存のプロダクトのブラッシュアップが主で、クックを「ジョブズに匹敵する発明家」と呼ぶことはできない。しかしクックは、ある意味ではジョブス以上の人物である。

 民主社会では、ひとりの政治家が10年を越えてリーダーを務めることは稀だ。たとえばアメリカ大統領の任期は最長で2期8年と定められており、カリスマ政治家のバラク・オバマもこれに従った。対して企業統治では、ひとりの経営者が10年を越えて在任することが珍しくない。そうなると企業人には、目まぐるしく変わる政治への対応も必要となってくる。

 2010年代にクックが残した最大の事績を挙げるならば、アメリカ史上最大の政治的荒波を、清廉(せいれん)なモットーを保ったまま乗り越えたことだろう。陰謀論を吹聴し、マイノリティを攻撃するドナルド・トランプがホワイトハウスに陣取る間も、彼は世界企業Appleにふさわしい進歩的なステートメントを発出し続けた。2014年には自らがゲイであることをカミングアウトし、当事者を勇気づける一幕もあった。

 もちろんジョブズも魅力的な人物で、決して差別者の側には立たなかったろうが、しかし語気が強く、摩擦を生む性格だった。企業経営者という立場を得てなお、クックのように信念を貫けるリベラル派の人士は、自由の国アメリカといえど稀有なはずだ

2011年のApple・Googleを振り返る

iPhone 4S

iPhone 4S © Deanpictures

 10年前のデジタルライフを振り返ってみよう。2011年秋に発売されたのがiPhone 4Sで、これはスティーブ・ジョブズが見届けた最後のiPhoneである。通信に用いるキャリア回線は低速な3Gで、リアルタイムな動画視聴には荷が重かったが、高解像度のディスプレイと、タッチパネルによる良好な操作性で確固たる市場を築いたのは周知の通りだ。

 auでiPhoneが使えるようになったのも、このiPhone 4Sからである。ドコモはまだiPhoneの販路を持っていなかったため、ユーザーがソフトバンクに流出するという事態を招いた。当時のAndroidスマートフォンの使用感は、iPhoneに遠く及ばなかったのである。

 一方、2011年には「検索エンジン」といえばすでにGoogleだった。動画サイトのYouTubeを傘下に収める(2006年)など、現在のような多角化もすでに進んでいた。

 iPhone発売時にはAppleと蜜月の関係を結んでいたGoogleだが、新しくAndroid OSに関与することで「Appleの最大の敵」と目されるようになったのがこの頃だ。したがって当時はすでに、現在と同じ構図ができていたといえる。

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