<第9回>世界の謎をたしかめるため、穴に飛び込んだリンネル。そこでは…――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
(この物語は岩井克人『貨幣論』がもし『トイ・ストーリー』だったら? という仮定のもとに書き進められています)
【第9回】世界の謎をたしかめるため、穴に飛び込んだリンネル。そこでは値札が貼られてしまい……?
<登場人物>
リンネル:服の素材に使われる亜麻布のことで、英語で言うとリネン。
上着:新品の1着の上着。
お茶:美味しいお茶。
コーヒー:淹れたてのコーヒー。
<前回までのあらすじ>
大量の貨幣によって、商品世界は激しい洪水に見舞われた。この危機を乗り越える方法はないのか? リンネルたちは船に乗り、貨幣の海を突き進みながら、かつて「金」が現れた「穴」にやってくる。そこには「商品」とは違う「人間」がいて、「穴」に入れと言うのだった──!
この世界の謎を解くために
人間「さぁ、跳ぶのかどうか決めるのだ……」
「穴」を前にして、「人間」は「跳べ」と言います。しかし、ぽっかりと開いた「穴」のなかは真っ暗で、どこまでも深い闇が広がっています。飛び込んだところで、なにが待ち受けているのかわかりませんでした。
上着「『穴』に入るだと……?」
コーヒー「いったいどこに繋がっているんだ……?」
上着「やめたほうがいい」
みんな口々にそう言いました。無理もありません。そもそも「人間」が味方なのかどうかもわからないのです。しかし、意を決して、リンネルはこう言いました。
リンネル「ぼくは入る」
上着「!?」
コーヒー「!?」
驚いて、上着とコーヒーがリンネルの顔を見ます。リンネルの表情は強張っていましたが、覚悟を決めたようでした。
上着「リンネル……!」
コーヒー「やめろ、何が起こるかわからないぞ!」
上着「そうだ、2度と戻って来られなくなるかもしれない!」
穴から出て来られなくなったら、もうリンネルとは会えなくなるのです。上着とコーヒーは必死に止めました。その様子をお茶は冷静に見つめていました。
お茶「それでも行くんだね……?」
上着「お茶!」
お茶は確認するように言いました。その瞳はまばたきをせずに、まっすぐにリンネルを見つめていました。お茶の問いかけにリンネルは少しうつむいたあと、お茶を見つめ返して言いました。
リンネル「うん。この世界がこうなってしまった理由がわかるかもしれない」
その答えにお茶は黙って頷きました。
お茶「私も一緒に行きましょうか?」
リンネル「いや、お茶はここに残ってくれ。ぼくが帰ってくるのを待っていてほしい」
お茶「……わかった。気をつけて」
リンネル「うん!」
リンネルはずっと待っていた人間のほうを向きました。
リンネル「待たせたね」
人間「ふふふ。さぁ、『命がけの跳躍』をするのです」
リンネル「うおお!」
リンネルは助走をつけて飛び上がり、穴に向かって落下していきました。