門脇麦、“死ぬかもしれない”大病を患って見えた「発想の転換」
『凶悪』『孤狼の血』などで高い評価を得ている白石和彌監督が、邦画界に爪痕を残した恩師・若松孝二監督(演:井浦新)の若かりし頃と、若松プロダクションに集った若者たちの姿を綴った『止められるか、俺たちを』が10月13日より全国ロードショーとなりました。
主演を務めるのは、『愛の渦』(2014年)にはじまり、今年の1月期の連続ドラマ『トドメの接吻』(日本テレビ系)など、チャレンジングな役柄をものともせず、同性代の女優たちとは一線を画す活躍を続ける門脇麦さん(26)。
本作は門脇さん演じる、若松プロに飛び込み、助監督として時代を駆け抜けた実在の女性、吉積めぐみさんの目線を通じて展開していきます。門脇さんに、作品の若者たちと重ね合わせ、ご自身のもがき、20代前半で経験した大病、意外な趣味などを聞きました。
当時を知らない私だからこそできることを考えた
――完成作をご覧になって、率直にどう感じましたか?
門脇麦(以下、門脇):想像以上に、青春映画になっていました。みんな楽しそうにしていて、その楽しそうなのが刹那的で切なくなるくらい。みんな輝いているなと思いました。
――門脇さんは、白石監督とはお仕事されていますが、若松プロでのお仕事は初めてですね。
門脇:スタッフを含め私以外の方は、ほぼ若松プロとゆかりのある方たちということもあって、普通の映画作品とはまた少し違う、個々の思いが強い現場になるだろうと感じるなかで、若松さんと生前お会い出来なかった私が主演として立つことに最初は不安もありました。
――若松プロの青春期を描いた本作には、実在の人物が多く登場します。門脇さんが演じられためぐみさんも、実際に若松プロで助監督をされていた女性です。
門脇:皆さんの若松さんへの想いを胸にしっかりと受け止めながら、でも同時にそこに引っ張られすぎるとめぐみさんという役は成立しなくなると思いました。
観てくださる方が若松監督のことを知らなくても感情を揺さぶられる作品に導いていける目線が必要で、実際の若松監督やめぐみさんを知らない私だからこそ、その部分を成立させられるかもしれないと思って臨みました。
描かれるのは、いつの時代も変わらない若者の葛藤
――めぐみさんについてどう感じ、どう演じようと思われましたか?
門脇:めぐみさんは映画が好きな普通の女の子だと思います。本編に「若松さんの映画が好きです」というセリフがあります。あの時代でもかなり映画が好きじゃないと若松監督の作品は観ていないと思いますが、それでも彼女は特別何かが変わっているとかではなく、「映画通の女の子」だったのではないかと思います。
そんなめぐみさんが、たまたま知り合ったオバケ(秋山道男)さんを通じて、映画の世界にふと足を踏み入れてしまった。でも「仕事」となると、作業や事務的なことに追われる日々。
遠くから見れば輝いていたけれど、入ってみると作業になってしまう。そんななかで憧れの気持ちを保つのは大変だし、そういう感覚って、仕事をしている人なら誰しもが持っていると思うんです。そういうさまはすごくリアルだと思うし、若者に限らず、そしてどの時代の人にも共通する普遍的な葛藤ではないかと思います。
――門脇さん自身は、女優になりたくてご自分で履歴書を送り、芸能事務所に入られています。憧れていた場所に足を踏み入れて、葛藤を抱えた時期はありましたか?
門脇:もちろんあります。始めたばかりのころは、それこそめぐみさんみたいに、遠くから見て憧れて楽しそうだなと思って入ってみたものの、自分の力のなさや才能のなさ、目の前のやるべき事に追われる日々に、好きで始めたはずなのになぜこの仕事をしているんだろうと思ってしまう瞬間もありました。ただ葛藤というよりは、模索という感覚が近いかもしれません。