ホンダ車が最強「自動車のエンジン音を聞くと泣き止む赤ちゃんが多い」説は本当だった
不思議なもので電車の音、工場の機材の音などを爆音でずっと耳にしていると、なんだか眠くなってくることがある。単調な爆音に脳が慣れ睡魔が襲ってくるのかと、根拠なく筆者は思っているが、これとリンクするようなある説を耳にした。
それは「泣き続ける赤ちゃんに、自動車のエンジン音を聞かせると泣き止むことがある」という説だ。さらに、その説には根拠にあるという。
「赤ちゃんがかつてお母さんの中で耳にしていた『胎内音』と、自動車の『エンジン音』は『周波数』が似ているから」というものだが、これは本当なのだろうか。
今回は2018年に四輪・二輪のモビリティメーカー・Hondaが実施した検証をもとに、その中身をご紹介したい。さらに検証結果を元にタカラトミーアーツが開発した、『赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER』についても担当者の話と合わせて触れたい。
目次
2分間エンジン音を聞いた赤ちゃんの大半の表情が穏やかに
まだ小さい赤ちゃんを抱えるお母さんの悩みの一つが「外出中などに赤ちゃんが泣いてしまわないか」というもの。
外出先でひとたび赤ちゃんが泣き出せば、周囲に迷惑をかけてしまうことから心配になるというわけだが、2018年にHondaが調べところによると、およそ75%以上のお母さんにとってこれが悩みだという。
2018年、この事実をきっかけにHondaでは、「赤ちゃんがいる家庭でもおでかけを楽しんでもらうために何ができるか」をまず検討していったが、その中で意外な仮説を立てた。それは「車のエンジン音」と「赤ちゃんが母親のお腹の中で聞いていた胎内音」の周波数がよく似ているというもの。
この仮説を元に、ホンダでは生後5か月~1歳半頃までの乳幼児12名を対象に実施。泣き始めてから、無音・自動車のエンジン音(85db)の2パターンで、心拍数の計測と乳幼児の表情を点数化して測定。
すると、2分間エンジン音を聞いた12人中11人の表情が穏やかになり、泣き声が聞こえない状態になったという。さらに、そのうち7名の心拍数が安定したことも判明。
無音状態と比較すると、車のエンジン音には乳幼児に対する鎮静効果があることが明らかになった。
Honda製自動車30種のエンジン音から、最も胎内音に近かった車種
2018年当時、この発見はニュースやSNSなどで大きな反響を呼んだ。これらの反響も後押しするかたちで、タカラトミーアーツではHondaとタイアップし、「赤ちゃんがおでかけするときに役立つ玩具商品を作れないか」と思いついた。このときは、さまざまな事情で断念せざるを得なかったが、その後、縁があり改めてHondaとタカラトミーアーツの商品化のプロジェクトをスタートさせることになった。
タカラトミーアーツではHondaから提供されたさまざまな自動車のエンジン音を再生するサウンドユニットを開発。この開発は、サウンドヒーリング協会の協力のもとで何度も試行錯誤を繰り返したという。
サウンドヒーリング協会の理事長、喜田圭一郎さんはこう話す。
「子宮の中で聞こえるお母さんの心音には低い音が多く含まれています。Hondaのクルマのエンジン音も低い音が多く含まれお母さんのお腹の音に特長が似ていました」(サウンドヒーリング協会・喜田さん)
ただし、その「音」は当然自動車のモデルごとに違う。ここでもさまざまな自動車のエンジンを取り寄せ、「どれが最も胎内音に近い周波数なのか」を検証したという。タカラトミーアーツの高橋英之さんに聞いた。
「Hondaで調査を行った約30車種のエンジン音の中で、最も胎内音に近い周波数特性を持つのがスポーツカー『Honda NSX』(二代目)のエンジン音だということが判明しました。
そして、この『Honda NSX』のエンジン音を採用した『音が流れるぬいぐるみ』を、玩具の安全基準に合わせながら開発することにしました」(タカラトミーアーツ・高橋さん)
機能だけでなく造形にもこだわったぬいぐるみ
その「音が流れるぬいぐるみ」は、自動車の形をしたぬいぐるみの中に、前述のサウンドユニットを入れたもの。果たして完成したこの商品は、『赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER』と名付けられた。
「ぬいぐるみ自体も、赤ちゃんが親しみを持てる色と形の車を目指しました。その際Hondaとも相談を重ね、往年の名車『S600 クーペ』をモチーフにオリジナルデザインを起こすことになりました。
車の形状を保持するための素材選定を行ない、ウレタンを採用しています。赤ちゃんの安全面を重視し、凹凸がなく滑らかな触り心地と転がりにくい安定した形状にこだわりました。また、サウンドユニットを外すとぬいぐるみ部分を手洗いできることも特徴です」(タカラトミーアーツ・高橋さん)
赤ちゃん・見守る大人双方が笑顔になれる商品を目指した
赤ちゃんを取り巻く環境は、想像以上に繊細でお母さんにとっては忙しいことこの上ないものだ。こういった状況を想像し、『赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER』は、その斬新性、かわいさだけでなく、使い勝手の良さも商品に投影している。
例えば、ぬいぐるみに内蔵されたサウンドユニットのスイッチを押すと、エンジン音が約45秒間流れるわけだが、のちに自動で止まる。その一方、再生中にスイッチを押すことで途中で止めることもできる上、遠隔でボタンを操作することで、ループ再生することもできる。こういった使い勝手の良さもまた、タカラトミーアーツがこだわった点でもある。
「赤ちゃんはどうしても自分自身で快適な状態にはできないものですが、この商品が日々笑顔で過ごすきっかけになればと思っています。そして、快適に過ごす赤ちゃんを見守る皆さんも、笑顔あふれる日々をお過ごしいただければ嬉しいです。
なお、この商品はエンジン音を忠実に再現できるように開発をしてまいりました。ぜひ、エンジン音も楽しんでいただければと思います」(タカラトミーアーツ・高橋さん)
正式発売を前に、事前予約受付中
前例がない一方、超画期的なぬいぐるみでもある『赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER』。正式な発売を前にして多くの反響があるという。
「流通・販売店様、そして一般のお客さまともに、まず『エンジン音が赤ちゃんの笑顔を引きだす』ということに、驚きをもって迎えていただきました。
実を言うと、私たち自身もHondaから詳しく説明をもらうまでは半信半疑でしたので、もっともかもしれませんが、それだけ意外で有意義な商品にもなったと自負しています。
特に、身近に赤ちゃんがいらっしゃる方から『欲しい』と言ったお声をいただいています。発売前ではありますが、今後もご注目いただければ幸いです」(タカラトミーアーツ・高橋さん)
『赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER』は今年10月発売予定で、現在は事前予約を受け付け中。メーカー希望小売価格は8250円(税込)。まだ小さい自分の子どもへのプレゼントにももちろん良いし、親戚や友人の家庭へのプレゼントにも良さそうだ。
冒頭で触れた「車のエンジン音」と「赤ちゃんが母親のお腹の中で聞いていた胎内音」の周波数がよく似ているという事実とともに、本商品にもぜひ注目してほしい。
<文/松田義人>
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赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER
https://www.takaratomy-arts.co.jp/specials/hondasoundsitter/