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「完全な妖怪になりたい」京大卒の30歳ピン芸人が描く“異色のキャリア”

暮らし

眼に見えるもの全てがお笑いのネタ

九月

「お笑いと学問は地続き」と九月さんは語る

──九月さんの芸風はどのようなものなのでしょうか?

九月:主に3~10分の1人芝居形式のコントをしています。自分が気になった単語や概念を皮切りに、生活の中で覚えた違和感や発見、出来事への感想や疑問などからネタを組み立てています。小道具や音響や照明や衣装などは極力使わないで、自分の身体でできるもののみで、たくさんのことがやれたらなと思っています。

ネタ作りには「物事の面白さを発見していく作業」の側面があると思っていて、いつも身の回りの物を眺めながら「これがこうだったら面白くなるかな」などと考えています。

──目に見えるものや耳で聞くもの、すべてがお笑いのネタになりそうですね。

九月:そうですね! ライバルは『広辞苑』と「Wikipedia」です。辞書や辞典に載っている何万語という単語をすべて楽しむことができれば僕の勝ちだなと思っています。現実的に考えたとき、芸人って別にいっぱいいるので、わざわざ僕がやらなくてもいいわけじゃないですか。

それでも芸人をしているのだから、僕が存在しないと見つからなかった“面白いこと”をたくさん見つけたいなと思っています。最終的にそれらが世界全部を覆ってしまったら最高だなと思います。

学問とお笑いは地続きの存在

九月

年に数回、48時間~72時間ライブ会場に軟禁され、コントを披露する「南京ライブ」を開催

──日常に溢れるすべての物事が、九月さんにとってはお笑いのネタになりうるのですね。お笑いと京都大学での学びには共通点はありますか?

九月:「自分が見ている物事は一面的なものに過ぎなくて、実は他の見方があるのでは?」と疑問を抱き、そこからネタを作る日々の作業は、まさに学問の基本である「常識を疑う」という点と共通しています。だから大学で学んできたこととお笑いは地続きなんです。一見繋がりのなさそうな両者ですが、実は何1つ無駄になっていません。学問とお笑い、何ならかなり共通点が多いんじゃないかとも思います。

──最後に、九月さんのこれからの野望を教えてください。

九月:現在は年間1000本のネタを作り、全国でライブ活動をしているのですが、これを継続しつつ活動を拡大していきたいです。それこそメディア出演であるとか、雑誌のコラムであるとか、色々な人とのコラボレーションであるとか。今年は初めての本が出る予定なので、それを皮切りに一気に開けていきたいなと思っています。

お笑い芸人として最終的に目指すのは「自分の生活とお笑いの区別をなくす」ということです。僕が生きている時間全てがコントになり、自分自身をも面白がることが最大の目標です。今、関東・関西で48~72時間軟禁され、不眠不休で延々とコントを何百本もやるライブを定期開催しているんです。

いずれは自分の劇場を持って毎日そのライブをやり続けたいです。そして「なんでやねん」と叫びながら息絶えたいです。さらにその5分後に息を吹き返し、完全な妖怪になってみせます!

<取材・文/越前与 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>

ライター・インタビュアー 1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。

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