“和菓子の危機”に活路を。タイで挑戦する老舗和菓子店、人気の理由は「映え意識」
饅頭、ようかん、煎餅……日本文化の象徴である和菓子離れが止まらない。農畜産業振興機構によると、和菓子の生産量は1993年にピークを迎えて以降、30年間ずっと右肩下がりだ。
若い世代を中心に洋菓子の消費量が増える一方、和菓子業界はコロナ禍における手土産需要の落ち込みにより、厳しい状況に拍車がかかっている。2022年は有名和菓子店の倒産が相次いだ。和菓子文化の衰退が危惧されるなか、新たな可能性に賭け、タイで挑戦をする老舗和菓子店がある。現地で奮闘する和菓子職人に、現状や今後の展望について話を聞いた。
売り上げの9割はタイ人
タイ・バンコクのチャオプラヤ川沿いに、高級ホテルと並び圧倒的な存在感を放つ巨大なショッピングモール。UG階の一角に佇むのが、浜松市の老舗和菓子店「巌邑堂」(がんゆうどう)のサイアム高島屋店だ。
ショーケースには、主力商品のどら焼きやみたらし団子、練り切りなどがずらり。その向こうで、タイ人の女性従業員がテキパキと商品の製造や包装を行っている。店の前で足を止め、和菓子を購入する客の大半は、若いタイ人女性だ。
「売上全体の9割はタイ人のお客さんですね。特に20代や30代の女性が多いです」
そうにこやかに話すのは、巌邑堂バンコク支店の経営マネジメントを担い、和菓子職人でもある静岡出身の高谷祐太さん(35歳)。高谷さんは現在、タイ人の従業員4名と共に、サイアム高島屋店を拠点とした2店舗を切り盛りしている。
一番人気は「粒あんどら焼き」
商品は現地調達した材料を使い、サイアム高島屋店で製造している。一番人気は粒あんのどら焼きだ。ひとつ80バーツ(約312円)で、日本の販売価格の1.2倍ほど。巌邑堂のどら焼きファンのタイ人女性は、「生地が香ばしくてフワフワで、大好きです」と顔をほころばせる。
筆者も実食すると、生地はふんわりと軽やか。上品な甘さの粒あんは口当たりが良く、ほっとする味わいだ。「これからが旬のイチゴを使った大福や、みたらし団子も人気ですね」(高谷さん)。
巌邑堂がタイに進出して4年が過ぎた。徐々に売り上げを伸ばし、今では多くのファンに愛されている。だがこれまでの道のりは決して平坦ではなかった。