遅れる給料の支払い。「今月もまだ入っていない…」

　銀行員時代には味わえないやりがいを感じていた桑田さん。しかし、思わぬ落とし穴がありました。給料が銀行員時代の半分になっただけでなく、経理専門のメンバーがいないせいか、支払いが遅れることもあったといいます。それでも「こんなにやりがいのある仕事はないし、1円ももらえないわけではないから」と問題を放置した桑田さんを、さらなる悲劇が襲います。

「地域密着型の団体だったため、毎日のように地元の人との飲み会があります。そうすると街の人間が全員知り合いのような状態になってしまって、ちょっと出歩いただけでも『桑田君、昨日◯◯にいたよね？ ××さんから聞いたよ～』と、あっという間に情報が広がるんですよね」

「無論、それが地方のコミュニティの良さでもあると思います」と続ける桑田さんですが、「でも僕は、そんな濃密すぎる人間関係がだんだん息苦しくなってきてしまったんです」と言います。

ついに精神的に限界が…

　いつ入るか分からない給料、あまりにも近すぎる人間関係。悩んでいた桑田さんはある日、事務所で仕事をしている最中に涙が止まらなくなったそう。慌てて病院に駆け込むと、うつ病と診断されました。

「“人を笑顔にするため”に転職したはずなのに、いつの間にか自分自身が笑顔を失っていたんです。それに気がついた時にはもう遅かった。泣く泣く仕事を辞め、現在はもう一度自分を見つめ直すためにアメリカの大学に留学しています」

　そう自嘲するようにつぶやく桑田さん。「やりがい」は必要だけれど、「やりがい」だけでは生きていけない。そう身につまされるエピソードでした。

－特集・スタートアップ企業苦労話－

＜取材・文／田丸こーじ　イラスト／zzz（ズズズ）@zzz_illust＞