ミュージアムは「地獄跡」のリノベ物件!“日本一の温泉県”で進む地域価値の再発見
「地域の価値」の見直しが進む別府温泉
さて、大分県は「日本一のおんせん県」を標榜しているものの、「温泉」という存在が当たり前すぎるゆえか、公立博物館に温泉やそれを取り巻く歴史に関する展示は少なく、日本一の温泉街である別府市でさえ市立美術館等に簡単な説明などがあるのみであった。
一方で、2018年以降の日韓関係悪化やコロナ禍などさまざまな要因によって観光客の減少が起きるなか、近年は次第に地元の民間資本による「地域が持つ価値・財産の見直し」も進みつつある。
別府市内でも、街のシンボルである「別府タワー」をはじめとして、市内各地で地元企業による「温泉に関する展示・研究」や「古い建物のリノベーション」などといった温泉資産・地域資産の活用が見かけられるようになった。
ミュージアムは「地獄跡」リノベ物件!
実はこの「地獄温泉ミュージアム」も、そうした「温泉資産・地域資産」の活用例のひとつ。実は地獄温泉ミュージアムがある場所は、もともと地獄めぐりのひとつを形成していた「金龍地獄」の跡であり、ミュージアムの中庭にある源泉と噴気は旧・金龍地獄のものだった。
旧・金龍地獄は1932年に整備された観光施設で、別府市有数の湧出量を誇る豊かな源泉がある地獄としても知られていたが2009年に閉館。その後は非公開となっており、温泉街に廃墟を晒す状態となっていた。
そうした状況を憂いていたのが、近隣にある地獄めぐりの中核施設「海地獄」。地獄温泉ミュージアムはこの海地獄の運営者が主体となって設立した地元企業「Dots and L」によって運営されており、もともとあった金龍地獄の源泉と噴気を「魅せる」演出がなされるなど「地獄を良く知っているからこそ」というべき仕掛けが随所に見られる内容となっている。
「地獄」から廃墟を経て、温泉の価値の発信地へと生まれ変わった「地獄温泉ミュージアム」。一度訪れて「温泉の一滴」となり、温泉と街の歴史に思いを馳せてみてはいかがだろうか。
<取材・文・撮影/若杉優貴>