「IT企業はモンスター」と奇異な目で…都市部と地方の“ITスキル格差”はあるのか
溶け込む努力を惜しまず信頼を築いた
とはいえ、小田氏によれば「美波町などでは当初、『IT企業というモンスターが来た』という奇異な目で見る人もいた」と課題も多かったらしい。
「ですが、徳島県に進出したIT企業の人たちが、現地に住む漁業集落の人たちにスマホやタブレットの使い方を教えたり、IT企業で働く人達が秋祭りの担い手になったりなど、地元コミュニティに溶け込む努力をして信頼関係を築いていきました。
その結果、“町の観光ボランティアガイドのご老人の方々がタブレットを片手に観光案内する”といったシーンに遭遇するようになっています。また、深刻化する人口減少・少子高齢化や南海トラフ地震のリスクに悩む地域ですので、そうした地域課題にIT企業の人達が解決に取り組むようになりました」
成功のカギは「リアルな交流」
徳島県の事例のように各地方でも上手くIT企業が関わっていけば、デジタル田園都市国家構想を成功に向かうのではないか。最後にIT企業が地域に受け入れられるためのポイントを尋ねた。
「双方の人材の交流ということは、とても大切なことなのかと思います。先述した徳島県で上手くIT企業が馴染めた要因として、1つには霊場めぐりに由来する『接待の文化』が根付いていて、よそものを排除しない風土があること。
一方、進出企業側も単に田園・海浜での生活を満喫したかったのではなく、都会では得られない“フェイス・トゥ・フェイス”のリアルなコミュニケーションの場を持つことを強く望んでいたことが大きいと考えています。この点はいわゆる“リゾートオフィス”と違うところです」
ただ単に「ITの力で地方を活性化!」と掲げるだけでは、デジタル田園都市国家構想は上手くいかないかもしれない。最初は拒絶される可能性は往々にして想定されるが、根気強くコミットしていることが求められる。なにより、まずはその地域にITスキルが必要なのかも見極めることが重要なのではないだろうか。
<取材・文/望月悠木 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>
【小田宏信】
成蹊大学経済学部教授。専門分野経済地理学・工業地理学は経済地理学・工業地理学。論文に「サテライトオフィス誘致による集落再生事業の実際」「徳島サテライトオフィス・プロジェクトの政策形成とその展開」(遠藤貴美子、藤田和史との共同執筆)などがある。著書に『現代日本の機械工業集積』(古今書院、2005)など