アメリカはなぜ銃乱射事件を止められないのか?/映画「ダウンレンジ」
進まないアメリカの銃規制
国民一人当たりの銃所持率は世界一、人口約3.3億人に近い約2.7億丁の銃が存在しているアメリカ(※4)。
建国以来、アメリカ合衆国憲法修正第2条が個人の銃保持を認めていると多くの人々に解釈されていることから、“銃をもつ権利=自由”と信じている国民も少なくありません。
だからこそ、銃愛好家からなる『全米ライフル協会』は大きな利権団体となっており、州によって銃規制の内容が異なるのです。
一般的に、共和党議員は銃規制反対、民主党議員は銃規制賛成が多いと考えられていますが、民主党支持者のなかにも銃規制に反対する保守的な有権者がいるため、銃規制強化を公約にあげることを避けてきました(※5)。
立ち上がる「ジェネレーションZ」
けれども、来る11月6日に中間選挙に向けて、ようやく民主党もほとんどの選挙区で銃規制強化を打ち出しました。それには、1995年から2000年に生まれた「ジェネレーションZ」と呼ばれる若者の影響力が関係しています。
1999年のコロバイン高校での銃撃事件以来、生徒たちは学校で銃襲撃に対する訓練を定期的に行うなど、その不安や恐怖をリアルに感じて成長しました(※6)。
そして、今年2月14日にフロリダ州の高校で起きた銃乱射事件をうけて、同校の生徒たちは銃規制強化を求める運動を全米各地で行ってきたのです。この運動の主力はまだ選挙権をもたぬ高校生たちですが、彼らの運動が有権者の意識を変え、中間選挙にも影響するかもしれません。
若者やジェンダーのステレオタイプに問題提起する物語
ほかにも、“か弱い美少女のヒロインが絶叫する”スリラーやホラー映画とは異なり、登場する6人の大学生がそれぞれに勇敢で賢い点もユニークな今作。
弱者として描かれがちな女性が実は銃に一番詳しいなど、ジェンダーに関係なく人物が描写されており、「今の若者は~」「女性は~」といったステレオタイプに疑問を呈しているようにも感じます。
冒頭からあっと驚くラストまで一瞬も目が離せぬほど、緊張の糸が張り巡らされた『ダウンレンジ』。
世界各国の映画祭で喝采を浴び、「『ヴァーサス』以来、北村龍平監督の最高傑作」と呼ばれる本作は、一級のエンターテイメント作品でありながらも、若者を追い詰める銃社会や格差社会に警鐘を鳴らしているのではないでしょうか。
<TEXT/此花さくや>
【公開情報】
『ダウンレイジ』は9月15日、新宿武蔵野館にて2週間限定レイトショー
配給:ジェンコ 配給協力:エレファント・ハウス
【参考】
※1…「Mass shootings in the U.S.: When, where they have occurred in 2018」 ― abc15ARIZONA
※2…「Why the US has the most mass shootings」― CNN
※3…株式会社作品社『大量殺人の“ダークヒーロー”――なぜ若者は、銃乱射や自爆テロに走るのか』フランコ・ベラルディ(ビフォ)著 杉村昌昭訳
※4…「America’s gun culture in 10 charts」 ― BBC.com
※5…「Is it fair to blame Democrats for not doing anything on guns when they controlled Congress?」 ― The Washington Post
※6…「How to tell if the gun-control movement is going to be a major player in November」 ― The Washington Post