米アカデミー賞受賞なるか?『ドライブ・マイ・カー』が普通の日本映画と違うワケ
アカデミー賞作品賞受賞希望!?
2022年のアカデミー賞作品賞は、多様性を考慮している。巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』は、少数派の移民の視点に立ってミュージカル映画の名作リメイクに果敢に挑む。
ジェーン・カンピオン監督の想いが込められた西部劇世界を描く『パワー・オブ・ザ・ドッグ』では、セクシャル・マイノリティの存在感が際立つ。濱口監督の『ドライブ・マイ・カー』は、悠介が演出する演劇が「他言語劇」であることや、そもそも日本映画であること自体、多様性に富んでいる。
その他、『コーダ あいのうた』と『ドリームプラン』は、家族愛には実にさまざまなカタチがあることを気付かせてくれる傑作だし、ケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』、ギレルモ・デル・トロ監督の『ナイトメア・アリー』、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE デューン 砂の惑星』も含め、それぞれ監督の個性が発揮された多種多様な力作が揃う。
有力視される『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
あるいは、レオナルド・ディカプリオが心配性の天文学者を痛快に演じる『ドント・ルック・アップ』のアダム・マッケイ監督と、未見ながら『リコリス・ピザ』のPTA(ポール・トーマス・アンダーソン監督)には、毎回アメリカ映画の完成度の高さを痛感させられる。
もうひとつだけ勝手を言わせてもらうと、最多12ノミネートで、下馬評では受賞が有力視されている『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が、必ずしも受賞に相応しい作品でないことは強調しておきたい。ここ数年のアカデミー賞作品賞受賞作品が、全米批評家協会賞作品賞受賞作品である傾向を踏まえると、『ドライブ・マイ・カー』が作品賞受賞の可能性は十分にあり得る話だと思う。
仮に本作がアカデミー賞受賞に到らなかったにしても、清々しく、挑戦的で、何より誇り高い芸術性を知らしめた濱口竜介監督が、世界映画史にその名を刻むことはまず間違いないだろう。
<文・撮影/加賀谷健>