“笑顔が消えた”ロシア出身の人気タレントの覚悟「プーチンはロシアも破壊している」
「ロシア社会が自由だったことなんてない」
日本や欧米のメディアでは、ロシア国内の反戦デモの映像が流された。民主的な政権を求めるロシア市民の声が、プーチンを思いとどまらせ、政権交代を実現できるのではと期待する声もある。だが、この点でブラス氏は悲観的だ。
「ロシアは広く、デモは限定的です。そもそもロシア社会が自由だったことなんてないんです。欧米の文化に触れている人を除けば、民主的な政治体制を想像すらできない。対立候補が毒殺されそうになった、メディアの政権批判を許さない国で、プーチンに投票した人たちの責任は問えないと思います。
そして、日々法律を改正して反戦運動が厳罰化されている。ウクライナへ寄付をすると禁固20年。僕も寄付をしたので、ロシアに入国したら逮捕されるのでしょう」
仮に反戦や反プーチンの声が高まれば、市民に向けて発砲しかねないと危惧している。ブラス氏は日本の永住許可を持つが、そんな状況では、国外にいてもいずれロシアに帰る人は沈黙するしかない。女子テニスの元世界王者でロシア人のマリア・シャラポワはSNSで戦地の子供支援のNGOへの寄付を表明し、募っている。国へは帰らないと覚悟をしたうえでの投稿だ。
「国に帰れ」「ほんとはスパイだろ」誹謗中傷も
一方で、世界中でロシア人への憎悪が高まり、ロシア人は苦しい立場に立たされている。
「ロシア人とロシア政府は別で、これはクレムリンの戦争なのです。ネットには『ロシア人が人のものを盗んだり嘘をついたりするのは、そういうDNAだからだ』みたいな意見もありますが、それは人種差別的な間違った考え方です」
ブラス氏のSNSのDMやコメント欄には「国に帰れ」「おまえ、ほんとはスパイだろ」といった誹謗中傷も送りつけられる。
「とはいえ大半は温かい励ましの言葉なので、日本人は理性的だと感謝しています。でもロシア人が立たされている苦境は、戦地のウクライナの人たちと比べたら大したことではない。いまは、どうしたら一人でも死なずにすむのかを考える段階。微力ながら僕は発信できる立場にいるので、ロシア人たちに『戦争に反対してもいい』という姿を見せていきたいです」
覚悟を決めたブラス氏の冷静な見解と「反戦」への強い思いに今後も注視していきたい。
<取材・文/池田 潮 写真/朝日新聞 AFP=時事>
【小原ブラス】
タレント・YouTuber。ロシア生まれ、兵庫県育ち。外見は外国人で中身は関西人、ゲイであるアイデンティティを持ち、ロジカルなトークで日本の政治や時事ネタに物申す。YouTubeチャンネル「ピロシキーズ」、『めざまし8』(フジテレビ)など出演多数