ヤマト運輸、いくら運んでも儲からない構造的な“危機”
ブラック企業問題や、それに対する「働き方改革」で、ここのところ何かと注目を浴びているヤマト。
今回の決算でも230億円の未払い分残業代の支払いが、大幅減益の原因の一つとなっています。
未払い残業代に関しては、コンプライアンス的にも問題なので、支払ってしかるべきものですが、とはいえ業績を見ていて気になるのはそもそもの利益率の低さです。
一概に企業の収益性の評価といっても、売上に対するものから資産に対するもの、従業員あたりのものから投資(家)に対するものまでさまざまありますが、基本的な指標のひとつに売上高総利益率があります。
これはざっくりいうと、企業がモノやサービスを提供した時に得られた収益(売上高)から、それを作ったり仕入れたりするために遣った費用(売上原価)を差し引いた、企業のおおもとの利益(粗利)を評価しているもので、粗利率とも呼ばれます。
粗利の名の通り、ざっくりとした利益ではあるものの、この比率が高ければ高いほど、その企業の付加価値が大きい(=市場競争力が高い)ということになり、重要な指標のひとつです。
ただし、薄利多売することで利益の絶対額やシェアを取りに行く戦略を採る企業もあるため、必ずしも高ければ高いほど優れた企業である、というわけではありません。また、例えば業種によっても、粗利率は大きく異なります。
例えばファーストフードの日本マクドナルドHDの直近の粗利率は17%ですが、基本的に仕入れや在庫等がないIT企業のヤフーの粗利率は57%あります。
佐川急便のAmazon撤退で重荷を背負うヤマト
その上で、今回のヤマト運輸の粗利率を見ると1.8%。
いくら宅配事業が薄利多売で、未払い残業代の影響があったとはいえ、相当シビアな数字。しかも、2016年以降の売上(営業収益)は伸びているにもかかわらずです。
なお、ライバルである佐川急便(SGホールディングス)のデリバリー事業は営業利益率(粗利から更に宣伝費や本社経費等の販売管理費を引いたもの)でも6.2%。
もともと佐川は最近よく見かける織田裕二さんのテレビCMを見ても分かる通り、利幅を取りやすい大口の法人顧客や物流に注力する戦略をとっているとはいえ、その差は一目瞭然です。
2013年には、佐川が撤退したAmazonとの取引も引き受けるなど、ネット通販が普及した現在、もはや国民的物流インフラを担っているといっても過言ではないヤマト。
未払い残業代のような問題はきちんと対処するとして、その抱える課題をヤマト1社のものとすべきなのか、いよいよ本気で考えないとまずそうな雰囲気漂う決算です。
ヤマト運輸の過去の業績や企業情報は「NOKIZAL」で確認できます。
<TEXT/平野建児>