世界遺産は増えすぎか?奄美大島、縄文遺跡群の登録に見る、その功罪
増えすぎる世界遺産は問題か?
世界遺産は、年々登録数が増えており、個人的には世界遺産登録の価値が薄まっていると感じる。しかし、宮澤氏は「増えすぎることに問題はない」と語った。
「現在では、世界遺産登録により観光客の増加が見込めるという、経済的な効果の面ばかりが表立っていますが、世界遺産の本来の意味は人類が歩んできた歴史を守っていくことです。世界の多様化をどうやって守っていくか、ということでもあります。登録されないと知られなかった場所もたくさん存在します。世界遺産は、そういったものを知る窓口の役割を果たしていると思います。なので、増えすぎるということに問題はないと思っています」
世界遺産が増えることに問題はないという一方で、日本のみならず、文化大国と呼ばれるイタリアやフランスでも、文化財の保護に掛けるお金は増えていないという問題もあるそうだ。では、遺産保護のための資金調達は今後どうしていくのか。
「国や自治体の予算が取れないのであれば、1番に思いつくのは観光収入です。観光客のマナーについては様々な議論がありますが、観光地に行き、経済を回してくれる存在は大きいです。観光はやり方次第で大きな力となるものです。
他にも、企業にパトロンのような形で資金援助をしてもらうという方法もあります。日本の例で言うと、島根県の大森町にある『中村ブレイス』という会社は、同じく大森町にある石見銀山が2007年に世界遺産に登録された際、景観の保護に資金を投入したと言われています」
遺産登録の表と裏
また、最近では世界遺産が決まると、SNSでは「こんなところまで?」「知らない場所だ」というような声まで出ている。これに対し、宮澤氏はこう反論。
「世界遺産にマイナーなところが増えているのは、世界遺産が世界の文化や自然の多様性を代表することを目指しているからです。ヨーロッパの文化財やアメリカの自然などの有名なものだけが、人類や地球の歩んできた歴史ではなく、多くのマイナーなものも含めて私達の歴史、文化、自然なのです」
さらに世界遺産に登録された観光地では、観光客が殺到することもあり、マナーの問題が度々叫ばれている。例えば、岐阜県の白川郷は、現在も人が住み続けている合掌造り集落である。しかし、観光客が自家用車で集落に乗り入れたり、勝手に居住地のドアを開けるなどのトラブルが相次いでいた。そのため、白川郷では、自家用車の乗り入れを禁止するなどの策を講じる事態に。
「例えば先ほど話題に出た島根県の石見銀山は、世界遺産に登録される以前は、あまり知名度がありませんでした。ですが、登録をきっかけに観光客が増えたことで、今まで人があまり来なかったために保たれていた古い姿や街並みが崩れてしまい、遺産価値が損なわれてしまう恐れがあります。なので、世界遺産登録の際には、登録前の段階から、観光対策を講じることが重要です」