ワクチン接種予約、コールセンター現場の混乱「マニュアルを持つ手が震えた」
無駄口を叩く女性上司に四苦八苦
美波さんほかスタッフたちは「毎日、不快な気分になりながら電話に対応していた」と言います。
「次の予約が未定だった頃は、受電が少ない、暇な時期もありました。そんなときはSVもいないので、なかには無駄口ばかり叩いている女性上司もいて、他のスタッフたちもしゃべってばかり。あまりにうるさくて、架電中の人は下を向いて、手で電話口を押さえながら話すハメになりました」
また別の日。待機中の美波さんに、困った電話がかかってきたのは、夕方5時少し前でした。それは「個別接種のクリニックの予約が取れたが、予診票をなくしてしまった」という問い合わせでした。
「マニュアルにはなかった問い合わせでしたが、私たちは集団接種と個別接種の予約を別々に取っていたので『集団接種と個別接種は異なりまして……』と説明しかけたときに、近くにいた若いSVが『保留にしろ』とニラみつけてきたのです。驚いて保留にすると『どこに集団接種と個別接種が違うと書いてあるんだ』とさらに言ってきました。マニュアルブックを持つ手も震えました」
結局、「予診票を取りに行く、行かないはお客様の任意」というのがそのSVが教えたかったことらしいのですが、上司の高圧的な態度に、美波さんは困惑しきり。保留にしていた電話も、切れてしまったそうです。
外部も内部もストレスがたまる環境
いらいらした感情をぶつけられてしまった美波さんは、SVの態度にもストレスを感じたそうです。
「外からの電話にも、職場の人間関係という内部にもストレスがたまる環境でした。もう辞めようと思ったときに、たまたまそんな姿を見ていた同じスタッフの女性たちに誘われて、別の自治体のコールセンターに誘っていただけました」
別の自治体には、複数の予約コールセンターがあるものの、区民の個人情報に関わる案件は区役所内に設置されたコールセンターに転送されるなど、個人情報漏洩防止にも対応していたそうです。さらに65歳以上の高齢者には、集団接種と個別接種が同時スタートのため、今は安定して働けているといいます。
「SVも丁寧で優しい人ばかり。安心して仕事に臨めます」と美波さんはやっと安堵の表情を浮かべたのです。まだまだワクチン接種は始まったばかりで、自治体によって対応が異なることは仕方ないのかもしれませんが、外部からは見えない苦労が現場にはあるそうです。
<TEXT/夏目かをる>