引退した東京メトロ03系車両が、北陸鉄道で再デビュー。変身ぶりをルポ
東京メトロ日比谷線用の03系が引退してから1年が過ぎた。首都圏で1両18メートルは短いけれど、中小私鉄にはうってつけ。さらに軽量に定評のあるアルミ車体、省エネに優れたVVVFインバータ制御(電車を動かすのに必要な機器)も相まって、消費電力も低減できるなど、メリットも大きい。
北陸鉄道も、浅野川線の次世代車両として、2020年1月11日に03系を導入。万全を期して、11か月後の12月21日に新たなスタートを切った。今回は、2021年3月に取材した北陸鉄道03系だけでなく、熊本電気鉄道(以下、熊本電鉄)、長野電鉄といった地方鉄道の新編成の導入についても紹介する。
“昭和の首都圏電車”から“平成の首都圏電車”に
北陸鉄道は1996年に京王帝都電鉄(現・京王電鉄。以下、京王)井の頭線用の3000系を譲受し、「8000系」として12月19日から営業運転を開始した。上毛電気鉄道、アルピコ交通もこの車両を譲受しており、3社間において、部品に関する情報を常に共有しているという(現時点、部品を融通したことはない)。
元京王3000系はステンレス車体で、腐食に強いのが特徴だ。加えて、「最大100年もつ」といわれている。しかし、登場から60年近くたち、電車を動かすためなどに必要な部品が生産打ち切りになると、入手が困難となる。このため、車体が“元気”でも、生産打ち切りの機器類が老朽化すると、「機器更新(別の機器に換装)」「車両更新(次の車両に託す)」のいずれかを選択するケースが多い。
北陸鉄道は浅野川線の車両更新を決め、2014年頃より東京メトロ03系導入の検討を始めたという。東京メトロと東武鉄道が日比谷線第3世代車両の導入を発表したのは、2014年4月30日。当時、03系の車齢は20~26年(1988年から1994年まで42編成を投入)で、比較的経年が浅かった。また、冒頭で述べたとおり、北陸鉄道にとって、18メートル車は輸送力に適している。
東京メトロと協議の末、5編成10両の導入が決定。2019年7月11日から12日にかけて、第29・39編成の先頭車4両がJR貨物の越谷貨物ターミナルから、JR西日本の北陸本線松任まで甲種輸送された。
搬入からデビューまで1年近くを要した理由
03系はJR西日本の金沢総合車両所松任本所で、まず第39編成(北陸鉄道1編成目)が改造されたが、車内には「メトロ車両」のステッカーが貼付されている。東京メトロに確認したところ、JR西日本テクノスがメトロ車両より工事を請負実施したという。また、メトロ車両は検査などの実施する際に、出張対応しているそうだ。
2020年1月11日、トラックで浅野川線の内灘駅検車区に搬入されると、営業運転開始まで11か月を要した。
北陸鉄道によると、電機品メーカーからVVVFインバータ制御による、信号設備や踏切での誘導障害が指摘されたという。浅野川線は踏切が多く、なおかつ設備が古いのだ。
誘導障害が発生すると、列車の通過前、もしくは通過中に遮断機が上がってしまう恐れがある。このため、メーカーの関係者などを集めて、対策を講じた。また、8000系とは運転操作も異なるため、乗務員訓練に時間を割いた。
当初、北陸鉄道は2019年度から2023年度まで03系を各1編成導入する計画を立てていたが、諸般の事情で2024年度までずれることになった。