阪神のピッチャーから驚きの転身。「日本一不器用な俳優」の人生を変えた出会い
朝ドラや大河ドラマにも出演
こだわりを捨てるきっかけになったのは、古巣・阪神タイガースを舞台にした2002年公開の映画『ミスター・ルーキー』で演じた4番打者・多田役。メガホンを取ったのは『破線のマリス』で映画デビューさせてくれた井坂聡監督だった。
野球選手役だけは拒んできた嶋尾さんだったが、東大野球部出身で野球をこよなく愛している井坂監督から「主人公の職業をきちんと描きたい」という強い思いを聞き、ついにユニフォームを着て野球選手の役を演じることを決めた。
脇役ながら恵まれた体格が放つ存在感を持ち味に、これまで50作品以上のドラマや映画に出演。舞台経験も豊富で、自ら演出を担当することもある。俳優であれば“ちょい役”でも出たいと思う朝ドラや大河ドラマにも出演を果たし、彼を評価して起用し続けてくれる監督も少なくない。
だが、「よく存在感があるって言われますけど、ただ体がデカいだけですし、作品によっては変に目立ってしまうこともありますから。満足のいく芝居ができたことは1度もないし、いつまで経っても下手な役者なんです」と納得していない様子。
おまけに俳優の醍醐味を聞いても「楽しさよりも、つらいことの方ほうはるかに多いですからね…」と語る。
絶対に中途半端で終わらせたくない
では、なぜ俳優を続けるのか。
「野球は答えが出る。だけど、芝居には答えがないんですよね。今でも、どんな芝居が正解なのか分からないし、きっと死ぬまで悩み続けると思います。でも、役者は自ら選んだ道ですから。これだけは絶対に中途半端で終わらせたくないんです」
奇縁が重なって身を投じた俳優業も、気づけば芸歴25年目。プロ野球10年、少年野球から数えれば19年間の野球人生を超えた。
芝居に正解はないかもしれない。しかし、ドラマ『やまとなでしこ』、映画『Fukushima50』などで彼を起用した若松節朗監督は、嶋尾さんに密着した2020年放送のドキュメンタリー番組『OF LIFE』でこう語っている。
「嶋尾は日本一不器用な俳優。これは誉め言葉。不器用って自分で分かっているから、一生懸命努力する。1つのセリフに対して100回練習してきただろうなということが分かる。これが彼の不器用の強さ。それが画面で惹きつける」(同番組より)
これが嶋尾さんが選んだ俳優という道へのひとつの答えだ。
<取材・文/中野龍>