新宿のボロ物件に住んだ20代、共同トイレと銭湯で見た異様な光景
空き巣も逃げる恐ろしいマンションが
それから2年以上、同じアパートメントに暮らすインド人のことも羽村湯で起きたことも胸にしまいながら、風呂なしアパートメントに住み続けて、良太くんは無事に大学を卒業。そして、文章を書くことが好きだった良太くんは、自分も作り手になりたいと思い、出版社に勤め始めました。
西新宿の東側に広がる「きらびやかな新宿の喧騒に憧れていた」と言い、今度は歌舞伎町に住まいを探します。「歌舞伎町は家賃が高いと思われがちですが、それが探してみると意外と手頃な物件があるんですよ。ワンルームならば月7万円で探せます」と良太くんは話します。
好奇心旺盛な若者ならば魅力を感じるかもしれない歌舞伎町に見つけた住まいは、築年数こそ古いものの、大通りに面した立派なマンションでした。
「有名な漫画の舞台にもなり、裏稼業の方々が多く住むことでも有名です。そんな強面マンションですが、他の物件よりもむしろ安全ではないかとぼくは思ったんです。マンション自体が恐ろしいと、空き巣には狙われないということです」
まったくそのとおりだと、筆者も共感してしまいました。新たな生活を始めるため、良太くんは貯金の半分をつぎ込み、必要な家財道具一式を買いそろえました。
昼夜の区別なく騒がしい無数の民泊
出社時間がルーズなため、お昼前に目覚めることも多い良太くん。住んでいる8階のベランダから、寝ぼけ眼でふと下を見たときのことでした。そこにはベッド、机に椅子、冷蔵庫、洗濯機、ソファー、空気清浄機に大型テレビまで、数えるときりがないほどの家電製品が並べられていたのです。
「急いで下に降りて見に行きましたよ。つい最近ぼくが貯金をはたいて買った物よりも、はるかに高額でいい品が並んでいましたから。それらは全て、このマンションの住人が捨てていった物でした」
歌舞伎町ならばそれもそのはず。良太くんが暮らすマンションには、キャバ嬢やホストが多く暮らし、昼夜の区別なく騒がしい無数の民泊もひしめきあっていました。そして、最後に良太くんはこう言いました。
「最低限の衣類と歯ブラシだけ持って引っ越せばよかったんです。お湯を沸かすケトルは5つも捨てられていました。どれもティファールやタイガーのちゃんとしたメーカー品です。ぼくが買ったケトルはドン・キホーテで1480円の安物なのに……」
風呂なしアパートメントから歌舞伎町へ引っ越した良太くんでしたが、彼は出だしから損をした気分に。きらびやかに見える新宿界隈ですが、そこで生活すると他所では出くわすことのないような奇異な経験をすることもあるようです。
<TEXT/逆撫太郎 イラスト/パウロタスク(@paultaskart)>