逮捕や破綻も。2020年の不動産事件簿を振り返る/夏原武×全宅ツイ
「賃貸仲介手数料は0.5か月が正しい」って本当?
どエンド:不動産屋さんだって人間だから、最初から嘘つき扱いしてくる人を真面目に相手にしようと思わないですよね。いきなり「賃貸仲介手数料ってホントは0.5か月なのに、あんたたちは騙して1か月取ってる」とかお客に言われたら、嫌な気持ちしかしないでしょ。これは原則0.5か月といっても、世の中、1か月で動いてるわけだし……。
かずお:嫌なら帰れよっていいたい(笑)。
夏原:SNSの情報を見ていると、「本来の賃貸仲介手数料は0.5か月が正しい!」って言われているけど、俺はよしたほうがいいと思う。「聞くところによると~」程度にチラつかせるならまだしも、「俺は0.5か月じゃなきゃ嫌だ!」と言われたら、「どうぞお引取りください」で終わっちゃうからね。
かずお:交渉上手じゃない人が世の中多いですよね。もちろん知識として武装しておくのは必要だけど、交渉の機微というか、言い方とかそれを出すタイミングがあるだろという。
夏原:知識として知っといて損はないですけど、そこは勘違いしないで欲しいですね。
――『正直不動産』では、時事ネタを巧みにストーリーに取り入れていますが、どのように取材や情報収集をしていますか?
夏原:最初の頃は知り合いだった金融ブローカーに「なんか不動産の面白いこと知ってるやつ、紹介してくれない?」って繋いでもらいましたね。そこからまた紹介してもらう感じでした。なので、取材先は不動産ブローカーが多いです、お店を構えている不動産屋ではなくて。
取材で大変だった「六本木での一夜」
――業界のみなさんが読まれてもリアリティを感じる?
グル:むっちゃ思いますね。こんなことどこで聞いてるんやろと。
ようすけ:しかも幅広いじゃないですか、賃貸から売買まで。
夏原:ブローカーに取材していると困ることもたまにあって、以前「フルコミ」(フルコミッション:完全歩合制)について調べていて、詳しい人と赤坂で会って話もしてくれたんですけど、報酬とか一番肝心な部分がなかなか聞けなくて。そこを聞こうとすると、「それは夜に話そう」とか言い出して、六本木のお店に移動することになり、「うわー、これも俺が払うのか」と思ったね。
あくの:だめブローカーだ(笑)。
夏原:しかも、肝心な話を聞く前に酔っ払っちゃって「その件は、明日電話で聞いてくれ」とか言い出して大変だったけど、結局、そういう人に食いついておくと、話は面白いし、とんでもない話を聞かせてくれるんだよね。『正直不動産』がはじまってからは、連絡をくれる不動産屋さんも増えて取材がしやすくなった。でもね、話聞くと、「これは、うちじゃないんですけど~」というけど、どう考えても「それ絶対オタクでしょ」みたいな話が出てくる(笑)。
かずお:ようすけさんがよく使う、「これは先輩の話なんですけど」と同じだ。
夏原:でもそうやって出てくる話が一番面白かったりするんだよね。
⇒インタビュー後編≪不動産で騙されないための心構えは? 業界のプロが語り合う<『正直不動産』夏原武×全宅ツイ>≫に続く。
<取材・文/栗林篤>
【夏原武】
作家・漫画原作者。1959年千葉県生まれ。詐欺や裏社会を取材するフリーのルポライターの経験を基に、2003年から漫画『クロサギ』の原案を担当。2017年より『正直不動産』原案を担当。原案・原作に『新クロサギ』『任侠転生-異世界のヤクザ姫』『合同会社・正義屋』など
【全宅ツイ】
専業大家からブローカーまで、ツイッター上に生息する不動産業界関係者によって構成される異端のプロ集団。不動産業界の面白物件やニュースに登場した不動産などを集めた『クソ物件オブザイヤー』を毎年開催。著書に『業界で噂の劇薬裏技集 不動産大技林』『クソ物件オブザイヤー』(ともにベストセラーズ)など