勉強についていけない。「知的ハンディを抱えた子ども」の実像
「うちの子どもは、学校で友達とうまくやれなくて心配なんです」
「よく先生から連絡があって問題をたびたび起こしているようなのです」
子どもの問題は親を悩ませます。うちの子は、愛情不足? ひょっとして発達障害? と思うことがあるかもしれません。しかし、それ以外にも“境界知能”といった可能性もあるかもしれません。
ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)で知られる児童精神科医で、立命館大学教授の宮口幸治さんが、境界知能をはじめ、生きづらい子どもたちの特徴やその対処法を、漫画でわかりやすく解説した新刊『境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)を上梓しました。
自分はまだ子供がいないから関係ない……なんて他人事ではいられない「境界知能」とは何か? また、どんな子どもが当てはまるのかについて、宮口さんに聞きました。
知的障害や発達障害と違って、見過ごされやすい
――宮口さんは児童精神科医として数々の子どもたちに対峙していらっしゃいますが、そもそも「境界知能」とはどんなものなのでしょうか?
宮口幸治(以下、宮口):一般的に「知的障害」の基準は、IQ69以下を指しますが、「境界知能」はそこまでいかないものの、一定の支援が必要とされる人たちのことを指します。目安としては、だいたいIQ70~84くらいでしょうか。知的障害や発達障害だと診断されれば、特別支援の対象になりますが、境界知能の子どもたちは支援対象外になっているため、見逃されてしまうんです。
――境界知能の子どもは、現行では支援対象になっていないのですね。
宮口:しかし、支援しなくていいのかというとそういうわけではなく、境界知能の人たちは、知的障害の人たちと同様にかなりしんどい思いをしていることが多いです。実際、境界知能は、世界保健機構(WHO)が公表してきた国際疾病分類の旧版ICD-8(1965〜1974年、現在はICD-11)において「ボーダーラインの精神遅滞」と分類されたこともあります。
「境界知能」に該当する人は、人口の約14%
――割合としては、だいたいどのくらいの人が、境界知能だと言われているのでしょうか?
宮口:境界知能に該当する人たちは、人口の約14%いると推定されます。学校で1クラスが35名としたら、約5人が該当することになります。
――1クラスに5人! それは、かなり該当者が多いですね。では、境界知能の子どもは具体的にはどのような課題を抱えやすいのでしょうか?
宮口:一般的に低い学習パフォーマンスを示すという傾向があります。ただ、知的障害とは認識されず、「勉強が苦手」なんだなという以外にも、「やる気がない」「さぼっている」といった誤解さえ受けることも多いですね。また、勉強が苦手だけでなく、運動やコミュニケーションも苦手だったりすることもあります。