元楽天・一場靖弘が語る、ドラフト裏金事件を経て歩む「第三の人生」
基本を徹底的に教えたい
今の一場さんを悩ませるものは何もない。かと思いきや、苦笑いでこう切り出した。
「まだアカデミーの生徒は10人くらいなのですが、今の子供は少し注意するとそっぽを向いちゃうんですよ。僕らの時は怒られて当たり前だったんですけどね。とはいえ、甘やかしすぎてもいけないし、どうしたものか……」
現代っ子に戸惑いつつも、指導方針は明確に持っている。
「今の子供たちはYouTubeなどで、あの選手はこういうプレーをしていた、バッティングフォームがどうだったとか、本当によく見ているんです。でも、それは基本があってこそ。間違ったことは正して、基本を徹底的に教えるつもりです。
これだけは誰に何と言われようと変わりません。しっかりと基礎を伝えるために、僕も昨年、『一場靖弘のBASEBALLチャンネル』をYouTubeで開設しました。よくユーチューバーになったとか言われますが、そうではないんです。あくまでアカデミー事業の一環なんです」
“一場事件”を今後も背負っていく
最後に、自身の人生を大きく変えただけでなく、ドラフトの仕組みまで変えてしまった“一場事件”についても改めて聞いてみた。
「今でも、あの時お金を受け取らなければ……と後悔しています。当時はプロはそういう世界なんだな、これで親に仕送りをもらわなくて済むなという軽い気持ちでした。でも、あのまま巨人に入団していたら天狗になっていたかもしれない。
今の自分を応援してくれる人たちと出会えなかったかもしれない。もちろん過去に戻ることはできませんが、何が正解だったのか、まだ自分の中でも答えは出ていないんです」
そして、こうもつぶやいた。
「やっと世間が事件のことを忘れてくれたと思ったら、また蒸し返されてしまう。でも責任は僕にあります。誰かを恨んだりもしていません。今後もずっと背負っていく覚悟はできています」
<取材・文・撮影/中野龍>