リスカ傷跡が手首に今も…20代「墨出し職人」の壮絶人生
家業ゆえ、日常生活まで上司が干渉
さらに、山口さんは父親の会社で仕事をしていたため、家庭の時間すら仕事から離れられなかった。
「仕事中に責められるのはまだしも、日常生活まで干渉してくるのが耐えられませんでした。私はお酒を飲むのが好きなのですが、『酒なんか飲んでるから仕事ができないんだろ!』と家庭でも理不尽な怒りをぶつけられ、どんどんやる気を失っていきました。家の中ですら逃げられない『真のブラック企業』だと思いましたね」
それでも、同業他社に比べれば「暴力」がないだけマシだという。
「親父の数少ない良さは、決して他人に手をあげないこと。『そんなの普通だろ』と思われるかもしれませんが、同業では暴力が日常茶飯事なんです。私の聞いた話だと、ある鉄筋屋さんに勤めている人は朝礼で怒鳴られ、勢いのまま鉄筋で殴打されたそう。
しかし、この話の一番恐ろしいところは、それを見た周りも『またやってんな』とたいして驚かないところですかね。もう暴力が日常の一部になってしまっていますから」
3か月休みゼロ、福利厚生ゼロ
これだけのブラック企業でも、稼ぎや福利厚生が充実していればまだ見どころはあるかもしれない。しかし、むしろその部分こそが最悪だった。
「先にいい部分に触れておくと、残業だけはありません。しかし、残念ながら休みもありません。法定休日という概念はなく、繁忙期は3か月間休みがなかったこともありました。休みの予定は前日の19時まで確定せず、ゼネコンから依頼があれば、突然出勤を強要されることも」
また、法定・法定外を問わず、「福利厚生」と名の付くものがまったく存在しなかった。
「社会保険も厚生年金も会社負担はなく、税金も保険も自腹で払っています。名目上、社員とはいえ実態はほぼフリーランス。法定外の部分もドリンク代がもらえるだけで、ガソリン代、高速代、駐車場代、作業服代、工具代などはすべて自腹。この世界に入るとき、最初の作業着だけは親父に買ってもらいましたね。それも一生使えるものではありませんけど」