槇原敬之逮捕で注目。精神科医が警告する「薬物報道の在り方」
薬物依存症になるとどうなるのか?
――精神科で、ですか!?
松本:はい。そもそもの前提として薬物依存症の専門病院が非常に少ないという問題もありますが、「薬物を使ってしまった」「薬物がやめられない」と、薬物依存症の最も中核的な症状を申告すると、通報してしまう医師もいるのです。医師は本来守秘義務があるはずですが(苦笑)。
確かに、犯罪行為に関しては守秘義務違反には問われません。ですが、通報すれば、違法薬物を使っている人はますます怖がり、治療を受けられなくなっていきます。依存症の患者さんが治療にアクセスできないことは、国民の薬物消費量を減らすうえでも問題です。
たとえばなしですが、目の前に違法薬物を置かれて「今すぐ捨ててください、持って帰ってはだめです」といわれて、ポケットに忍ばせて持って帰るか、といえばまずしない、捨てられますよね?
――そうですね。それが普通だと思いますが……。
松本:でも依存症の人はそれができません。薬物消費量を減らすためには、薬物がコミュニティにあるかないか、だけではなく、薬物を欲しがる人がいるかどうか、つまり、規制により供給を減らすだけでなく、需要を減らすことが大切なのです。
需要を減らすとき、ターゲットになるのがやめたくてもやめられない依存症の人たちなのです。そのためには彼らへの治療が必要ですが、現在の日本は取り締まり一辺倒、支援がおろそかになっています。
それだけでなく、社会の中でスティグマタイズ(負のレッテルを貼られてしまう)され、援助者や支援者からも断られ、治療につながっていません。
負のレッテルが貼られる背景
――なぜ、スティグマタイズされてしまうのでしょう?
松本:実は日本国民の中で一生のうちに違法薬物を一回でも使ったことがある人がどれくらいいるのかを明らかにした調査があります。調査によれば、約2.3%だそうです。
違法薬物の使用歴を教えてくださいと尋ねられ、正直に答える人がどれだけいるのかは疑問が残りますが、一度でも使ったことがある方が2.3%だとすれば、おそらく依存症になる人は0.0何%程度しかいないと考えられます。
つまり、普通の生活をしていると、ほとんどの人は薬物依存症だとカミングアウトしてくれる人には会わずに生涯を終えられます。
ですが、薬物依存症の人にあって実際にコミュニケーションをとった経験がないにも関わらず「危ない人たち」と決めつけ、ダルク(薬物依存症者自身が運営する民間のリハビリ施設)の建設反対運動まで行われたりする。