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電通時代に学んだ「したたかな交渉術」31歳“ベンチャー・パン屋さん”が語る

ビジネス

常に「1位として君臨し続けるか?」

――やはり業界1位の企業は違いましたか? 電通で働いたことで2位との差をどこに感じたのでしょうか?

矢野:1位はそのポジションを常に守らなければいけないので、「仕事に細心の注意を配り、プライドもすごく高い」ということが良くも悪くもありましたね。

 加えて、世の中にたくさんのプロモーション案件などがある中で、他の代理店さんだと仕切れないような案件が「電通ならなんとかしてくれるだろう」という期待から回ってくることがよくありました。そして、実際にその案件をしっかりやり切りますので、そういった意識や行動の違いだと思います。

 電通はやはり帝王学として、全社員が「どう1位として君臨し続けるか?」を常に考えています。業界の2位以下の方と話をしていると「俺たちはどうせ2位だから、3位だから…」という言葉が聞かれるのですが、一方で電通の社内では「俺らがやらなければ誰が仕切るんだ!」という意識が結構強いんです。もちろんプレッシャーも大きくて、押しつぶされそうになったりすることもありますが…。

――そんなやりがいのあった仕事を3年でやめた理由は? まだまだ大変だけど楽しい仕事があったような気がするのですが。

矢野:「やり切った」と感じたからです。本社などに比べて規模が小さい中部支社なので、その分、ひとりに与えられる裁量も大きくて、当時の本社でいうと6年目とか7年目でやる仕事をひとりで全部やっていました。全部やり切って自分が作った案件がしっかり形になっていたので、次の部署に行くかどうしようか迷っていたときに、次の部署でやれることも見えてしまっていたので転職しようと思ったのが5年前ですね。

 そしてこのやり切った期間に会社から多くのことを学ばせてもらったのですが、その中で今の仕事でも生きていることが大きく分けて2つあります。1つは交渉の仕方。こればかりやっていたので、対企業・対個人それぞれに対するコミュニケーションの取り方はとても勉強になりました。というのは、やっぱり会社を離れてから思うのは、電通には圧倒的にしたたかな方が多いということです。これが僕の財産になっているところはすごくあります。

一子相伝の電通流したたかな交渉術

電通

Densu Building CC BY 2.0 via flickr

――その、したたかな交渉術というのはマニュアルのようなものがあるのでしょうか?

矢野:僕の場合は直属の先輩から丁寧に教えていただきました。将棋の指し方のように、「君のこの言い方ですると、相手との2回目の往復でこう返される」などというふうに理論的に教わりました。

 また別の先輩からは、直接教わったわけではないのですが、外部の組織に入り込むのが上手な人で、その様子を背中で見て「こうやって話しかけると潜り込めるんだ」ということを身につけました。「いかに義理を立てながらうまく相手の懐に潜り込んでいくか」という意識はすごく勉強になりました。

――先ほど、もうひとつ学んだことがあるとおっしゃっていました。それは何でしょうか?

矢野:実行力です。いろんなアイデアがあると思うのですが、最後は形にしなければ意味がありません。僕自身も駅広告に携わる中で「駅でこんなことをやりたい」というアイデアはたくさんあっても、実際にそれを落とし込もうとすると駅や通行人の都合などで難しかったりするんです。しかし、それでも折衝してなんとか形にするところはさすがだと思いました。自分も「絶対無理だ」と思ったところから逆算してなんとか形にしていったのですが、その際の思考方法や手の打ち方を修得できたのはいい経験でしたね。

 その中で、また交渉の話にも戻るのですが、頭が良くても全然物事が進まないんだなということも結構感じて、正論でも全然話が進まないところをいかにニコニコしながらやっていくかというところもすごく勉強になりました。

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