バブル漫画『右ダン』作者に聞く、デビュー・創作・交遊録
あの時代だからこそ描けた漫画だった
――バブルの頃の浮ついた生活や文化って、バブル崩壊後は批判の対象になりましたが、最近は当時のシティポップが人気だったり、「幸福な時代」の記憶として新しく消費されているんですよね。『右ダン』も、あの時代だからこそ描けた漫画なんだと思います。
末松:今はもう『右ダン』みたいなテイストは描けないですね。僕は最終的には鉛筆だけで描いていきたいと思っていて。だからいまは『週刊ポスト』で毎月描いてるような、モノクロのイラストがメインです。
――次の漫画の連載はもう決まっているんですか?
末松:いま僕が一番興味があるのは「老人」なんです。次の作品では老人の大御所の役者、勝新太郎とか高倉健みたいな、銀幕のスターとい言われたような昭和の老人が主人公です。テレビのバラエティとかには一切出ない、頑固な信念の持ち主。
でもマネージャーとして若い女性があてがわれて、世代間ギャップでいろいろ巻き起こる、というヒューマンコメディです。『右ダン』はサラリーマンに元気がなかったから描いた作品。いまは老人を元気づけたい。
――逆に若い世代へのメッセージがあるとしたら、どんなことを伝えたいですか? バブル崩壊から30年近くたって、サラリーマンのイメージは社畜に逆戻りしてしまいましたよね。
末松:漫画の下地が全く無かった自分が、サラリーマンだったら定年の年齢まで、こうして漫画家として不思議と続いているので、本当に人生何が起こるかわからないです。いまは新入社員の人の目標が「定年までに2000万円貯めること」みたいになってしまって、それはしょうがないことだと思うんですけど、2000万円って、貯めようと思っても貯まらないんですよ。
若い頃に人生を決めてもその通りにはならないので、目の前にあることを面白がってやるほうが、最終的にはいい人生だと思えるのでは、と自分自身感じています。いろんなことをやっていれば、将来はなるようになる、と思ったほうがいいと思います。
末松先生直筆、描き下ろしイラストを公開
――フリーターだったのが30歳の時にたまたま漫画を持ち込んだことで、還暦を過ぎてもずっと仕事が続いているわけですからね。
末松:いやいや、来年どうなるかはもう全然分からないですよ(笑)。でもなんとかなるんじゃないかなという気持ちでいます。うちのオヤジはいま97歳ですけど、大きな病院の薬局長にまで上り詰めて、定年で仕事が終わったとたん、それまで50人くらい挨拶に来ていたのがパッタリなくなっちゃって。今は完全に認知症になってしまっているんですが、そうなる前、80歳くらいの時の言葉が印象的で。「俺は一生懸命仕事してきたけど、今考えるともっと遊んでおけばよかった」と(笑)。
――沁みますね。厳しかった父親がそんなことを言うなんて。
末松:そう言った2~3年後に認知症になったんです。今は僕のことも全然わからないですよ。そういうのをみていると、やりたいことをやっておかないと、と思ってしまうんですよね。
――ありがとうございました。『右ダン』の一条まさとは今恐らく60歳近いと思いますが、今でもあの調子でチャラくカッコつけていることと思います。バブル景気はもう二度と来ませんが、機会があれば彼の近況をどこかで描いていただけると嬉しいです。
末松:実はもう描いてきたんです(笑)。これまで続編の依頼は全て断って来たんですけど、今回イラストを描いてみたら、意外とまだ描けるかも、と思いました。
<取材・文/真実一郎>