吉本興業も…「ファミリー」と言う経営者は何を考えているか?
カリスマの影響力が通じるのは直接体験した世代
すべての人がファミリー的組織運営に反対していたわけではありません。創業者なり、事業や組織を一緒に大きくしてきた戦友までは、その神通力が通じます。運命共同体で同じ釜の飯を食べてきた、ある意味ファミリーだからです。
組織は大きくなると、カリスマ的なトップだけではなく、同じ飯を食った幹部が「うちの社長は~」と引き合いに出しながら、その価値観や考え方を間接的に広めていきます。しかし、さらに組織が大きくなると、一緒に修羅場を乗り越えた経験のない第2世代が入社するようになります。
彼らとはどうしても物理的だけでなく、心の距離があるので、そのカリスマ性も伝わりにくく、どんなに熱く語っても「そうだったのですね!」と大人の対応をされてしまいます。映画を言葉で説明されるのと一緒で、しらけてしまうのが当たり前。経営の世界では、目の前に一緒に経験をした人までしかDNAは引き継がれないのです。
平成の時代を通じて、会社と個人の関係も、大きく変わりました。会社と社員は「親と子供」の約束だったのに、雇用調整・人員整理が行われるようになりました。もはや今の20代は「会社(親)が、社員(子供)の面倒を一生見るのは、ありえない」と理屈ではなく、本能的に気づいています。
成功するのは「母親的リーダー」
パナソニックを創業した松下幸之助は人ったらしで有名です。どんどん現場にも出ていき、相手を自分のとりこにし、その逸話や教えを広めることに注力していました。「物をつくるまえに人をつくる」を理念に掲げていたことは、どこかで聞いたことがあるでしょう。
ファミリーを唱えて成功した経営者は父親的ではなく、母親的に一人でも多くの人に接することで、理念を正しく伝え、受け止め、理解してもらっていました。ファミリーで成功してうまくいく組織と、うまくいかない組織の差は、母親的な機能を持つ経営者や上司がどれだけいるかにかかっています。
父親と娘、息子は反発しあうことは多いですが、母親を嫌いな子供が少ないのと一緒です。どうしても、父親的機能でリーダーシップを発揮すると、勝ち負けがでます。
おまけに父親が亡くなってしまうと、長男、次男、三男による遺産相続の争いが起きてしまいます。そこで勝ち残れればいいですが、負けてしまえばアウトです。父親的ファミリー経営は、企業にとって、その時点だけでなく、将来においても負の遺産を残しかねないのです。
<TEXT/松本利明>