「なるほどですね」の真の意味って?話題の「妄想語」作者の発想力
昨今、ネット、SNS文化が広がったことで、企業広告や著名人の発言が炎上する場面が増えている。もともとは何気なく発したはずの「言葉」が、一部を切り取られ、良くも悪くも発信者が想像していない意味が付加され、広がっていく。
そんな言葉がどんどん不自由になっていく時代に、存在しない日本語を勝手に作り出して紹介する『妄想国語辞典』(扶桑社)が発売され、わずか1週間で重版が決定するなど注目を集めている。
たとえば【行けたら行きます】の意味は「絶対に果たされない約束」。
【トビラ開けたら和式トイレ】の意味は、「げんなりする・期待はずれ」。
【なるほどですね】の意味は、「何の関心もないこと」。
こんな感じで、妄想語と意味・例文が並んでいる。
著者の野澤幸司氏は、コピーライターであり言葉のプロだ。そんな話題の著者に、同書が生まれたきっかけや、言葉を扱うことが難しい現在について聞いた。
きっかけはフリーペーパーの連載
――そもそもどのような経緯で生まれた本なのでしょうか?
野澤幸司(以下、野澤):ヴィレッジヴァンガードのフリーペーパー『VV Magazine』で続けている連載(22世紀のコトバ)がもとにあるんです。学生時代から、行間や言葉のウラを読む日本語の文化を、言語化できたら面白いかなぁと思っていて。
それこそ、企画自体が完全なる妄想だったのですが、たまたま知り合いだったVV Magazine編集長にこの話をしたら、彼が面白がってくれて連載をスタートすることになりました。
月8本ずつくらいのペースでコトバを掲載していたんですが、続けていたら、ある日「イベントで展示しませんか」とオファーをいただいたんです。
――どのような展示だったんですか?
野澤:ファッションバイヤーやクリエイターが集まる「rooms」というイベントで、その主催者から「ブース使っていいから、何かやってみたら?」と。それで、紙に「妄想語」をプリントして展示したんです。
そうしたら思った以上に反響があって、見に来てくれた主婦の方に「育児中で大変だったんですけど、笑わせてくれてありがとうございます」と、喜んでもらえました。
これは何かの需要があるのかもしれないと。別の仕事で打ち合わせに来ていた編集の方に、パイロット版の書籍の原稿をお見せしたら企画が通って、書籍化する運びとなりました。
尊敬と嫉妬が入り混じった感情を抱いた
――もともとハガキ職人だったんですね?
野澤:ラジオを聴き始めたのは小学生からで、福山雅治さんとかaikoさん、ゆずのオールナイトニッポンが、お笑い系だと伊集院光さんやナインティナイン、松村邦洋さんが、好きでした。
ただ、熱心なハガキ職人ではなくて、常連の投稿に対して「俺だったらこうやるなぁ」とか考えてました。本当は放送作家になりたかったですね。深夜の孤独な人たちを言葉だけで喜ばせていて、スゴいなぁと、尊敬と嫉妬が入り混じった複雑な感情を抱いてました。
――広告業界を志したきっかけは?
野澤:マスコミを中心に就活していた中で、広告代理店のコピーライターの仕事に興味を持ったんです。ハガキ職人とコピーライターって、パーソナリティや企業から渡されたお題に対して、言葉で解決する点では、実は似ていると思っていて。
ただ、就活は全敗で、唯一受かったのが、新聞社系の広告代理店、しかも希望とは異なる営業職でした。ただ、どうしても制作の仕事がしたかったので、2年後に企業ブランディングを手がけるベンチャー企業に転職してコピーライターになりました。
それこそコピーライターなりたての頃は1個の商品に対して500くらいコピーを考えたこともありました。そうすると何が起こると思います? 印刷したら、コピー機の出力部分に紙が溜まってアラートが鳴るんですよ、初めての経験でしたね(笑)。