「フランス映画祭2019横浜」の裏側。お祭り騒ぎに見えて実はシビア?
「フランス映画祭2019 横浜」の見どころは?
今年のフランス映画祭の上映作品は、日本での配給がまだ決定していない作品を中心とした16本。そのなかで、矢田部氏のオススメを聞いてみた。
まずは、2本のアニメ。アフガニスタンのタリバン支配下で生きるカップルの現実を描いた、ザブー・ブライトマン&エレア・ゴベ・メヴェレック監督作『カブールのツバメ』と、『キリクと魔女』などで有名なミッシェル・オスロ監督がベル・エポック時代の美しいパリを描いた『ディリリとパリの時間旅行』。
加えて、映画祭のオープニングを飾るジル・ルルーシュ監督作『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』は、さえないおじさん8人がシンクロに挑む、フレンチ・コメディのパワーが炸裂する痛快な作品だ。
そのほか、第69回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した、ナダヴ・ラピド監督作『シノニムズ』は、パリ在住のイスラエル人が帰化しようと奮闘するさまをシニカルかつユーモラスに描き、フランスの移民問題を浮き彫りにする。
「今年のラインアップはひときわ多様性に富んでいます。コメディから社会派、アニメからホラーまで様々なジャンルの映画が楽しめる。特に、フレンチ・アニメには社会性メッセージが込められた高い作家性があります。アニメファンだけではなく、大人の日本人にもぜひ観てほしい」(矢田部氏)
最後に矢田部氏は映画祭の意義についてこう語る。
「来たるオリンピックの影響か、日本文化を外に出そう、日本の素晴らしさを発見しよう、という風潮が日本全体にあります。そのせいか、過去数年、外国文化を学ぼうという意識が日本では低下していて、それが外国映画への興味の減少につながっているのかもしれません。でも、フランス映画を始め外国映画を観ると、本当に多くの人がおもしろいと言うんです。外国文化を理解する手軽なメディアが映画であり、外国映画のおもしろさの“気づき”の場が映画祭だと思います」。
止められないグローバル化の波に逆行し、トランプ現象やブレグジットが世界を分断しようとしている時代。外国文化を知ることで、自国文化やアイデンティティを冷静に見つめられるのではないか。映画祭は、こんな時代にこそ、異文化をつなぐ架け橋のひとつとして大いに意味がある。
<取材・文/此花さくや>
【ニコラ・ブリゴー=ロベール】
パリに本社を置くインターナショナルセールス・エージェンシー Playtimeの共同創設者。アート系作品に注力する同社が手がけた映画は公開中の『サンセット』(2019)、『BPM ビート・パー・ミニット』(2017)、『婚約者の友人』(2016)、アカデミー賞外国語映画賞受賞作『サウルの息子』(2015)、『ココ・アヴァン・シャネル』(2009)など。ジュリエット・ビノシュ主演『ノン・フィクション』(2018)は今年日本公開予定
【矢田部吉彦(やたべ・よしひこ)】
パリ生まれ。銀行勤務、英仏駐在・留学を経て映画業界へ転身。映画配給・宣伝を手がける一方、ドキュメンタリー映画のプロデュースなどに携る。2002年から東京国際映画祭にスタッフとして参加。2004年から上映作品選定を担当し、2007年よりコンペティション部門のディレクターに就任、現在に至る
【斉藤陽(さいとう・よう/プレイタイム)】
映画配給会社勤務を経て、主に単館系映画の配給および宣伝、またフランス映画祭や東京フィルメックスの広報などを担当。最近の担当作品は『魂のゆくえ』『僕はイエス様が嫌い』『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』『田園の守り人たち』『ジョアン・ジルベルトを探して』など