オリンパス事件を追いかけた映画監督が問う「日本メディアの忖度」
――耳の痛いお話です。現代の若手社会人に伝えたいメッセージはありますか。
山本:やっぱり信用できる情報源を複数持って、現実をきちんを把握することでしょうか。今はひょっとしたら、総合的に見て変革の過渡期にいるかもしれない。それを本当に変えられるのは、きっと若い世代だと思うのです。
僕は組織に属している人間ではないのでそこまで肌では感じませんが、映像業界を見ていても世代交代ができていなくて、まだまだ上にコントロールされているのが現状です。
若者が「ハイ、そうですね」連発では手遅れに
――映像業界に関して言えば、「Netflix」のようなストリーミングサービスも変革の一端を担っていますよね。
山本:それも結局は外圧じゃないですか。オリンパス事件のように、そこに頼らなくては問題が見えてこないのはおかしいと思う。だからこそ「こんなんでいいの?」なんですよ。
間違っていると分かっているのに、上の言うことを「ハイ、そうですね」と鵜呑みにして年を取っていたら、もう手遅れなんです。だから、ネットやSNSなども活用しながら確かな情報源を持って、 日本のメディアで垂れ流されているニュースだけじゃないことをきちんと知ってほしい。世の中に対してもっと敏感に感心を向けて欲しい。
オリンパス事件を見ていただければわかるように、なかなかそういう体質って変わらないんですよ。みんな「おかしい」と思っているのに結局、元のさやに収まってしまう。
――「おかしい」と思ったら自分たちでアクションを起こしてほしいと。
山本:別にすべてを疑えとか、日比谷公園に行ってプロテストに参加しろ、って言ってるわけではないですよ。でも、間違った体制の会社で事なかれ主義を続けていると、20~30年問したらオリンパス事件の幹部のようになって、若い世代に訳の分からない説教をたれる中年になっているかもしれない。だから、おかしいのはおかしいって声を上げて、何らかの議論を交わすべきだと思います。
あとは多様性とかですよね。いろいろな考え方があることは知ってほしいと思います。新入社員のみなさんに限って言えば、企業内の社会が社会のすべてじゃないですから。ウッドフォード氏のように違う価値観を持っている人は一方的に排除する。
組織の歯車になって自分の個性や生活や尊厳が全部ないがしろにされる。そういう考え方はもう古いですから、もっと違うものに対して寛容になっていかなきゃいけないと思います。
<取材・文・撮影/小松良介>
【山本兵衛】
1973年生まれ。米マサチューセッツ州の高校を卒業後、ニューヨーク大学Tisch School of the Artsにて映画製作を学ぶ。監督、脚本、プロデュースした卒業作品『A Glance Apart』がニューヨークエキスポ短編映画祭にて最優秀フィクション賞を受賞。2011年に制作会社ヴェスヴィアスを設立