禁煙規制で「国内のたばこ市場」はどうなった?決算書から読み解く
人口減少を見越して事業を早めに海外シフト
縮小するたばこ市場にも関わらず、売上高が増加しているのはなぜでしょうか。JTの財務諸表には海外・国内の売上高がそれぞれ記載されていますが、実はJTは売上高の7割から8割を海外のたばこ事業でまかなっています。
そして、販売数量が伸びない場合でも、強固なブランド力に基づいた適切な値上げを繰り返すことにより売上高の成長を確保しているのです。人口および人口構成の予測は、ハズレにくいとされる統計のひとつです。JTは1980年代からすでに国内市場における売上の減少を見通し、海外企業の買収という施策を打ってきました。
1999年のRJRナビスコ社の米国外たばこ事業の買収、2007年の英国ギャラハー買収はその最たるもので、Winston、CAMEL、Glamour、BENSON & Hedgesなどのブランドと販売網を買収し、現在も各国で販売網を広げ続けています。強固なブランド力に基づいた適切な値上げの実施もJTの施策のひとつです。近年は海外の販売数量も横ばいではありますが、値上げすることにより一定の売上成長を保っています。
海外たばこの販売数量は過去6年で0.06%しか伸びていませんが、年平均3.7%程度の値上げを行うことにより、売上高を3.8%程度伸ばしています。値上げは通常は既存顧客の流出を招きます。ここまで高い値上げを行い続けることができるのは、たばこという商品の性質もありますが、強固なブランドを買収により手に入れ、保守管理し、自社ブランドを愛好する顧客を持っているからです。
売上高だけでなく利益も増加している理由
売上高が伸びている理由は確認できましたが、各種利益もなぜ伸びているのかをみていきましょう。売上高が上がれば利益が必ず上がるとも限りません。売上高の向上だけを目指して、無理なプロモーションや生産拡大を行えば、原価率・販管費比率の増加を招き、利益率を下げかねないからです。
ここでは主に「本業からの利益」といわれる営業利益に関わる費用である、売上原価と販管費を見ていきます。
JTの過去6年間の損益計算書の数字を見ると、売上高の年平均成長率1.23%に対して、売上原価は0.64%、販売費及び一般管理費は0.72%と、売上高の成長率よりも低いものとなっています。つまり、売上高を増やしつつも、効率的な経営を行うことで製造や販売にかかるコストを抑え、利益の拡大ができているといえます。
これまでJTの損益計算書の数値を追ってまいりました。まとめると、JTは右肩下がりの国内のたばこ市場にもかかわらず、海外事業の成長、強固なブランド力に基づいた値上げの実施、効率的な経営を基に堅実に成長してきたと言えるでしょう。
今後の成長に関しては、新ジャンル製品の非加熱式たばこ、プルームテックの成長性などにもよりますが、世界的には人口は成長し続け、喫煙者の数は増え続けることが予想されているため、今後もJTは少なからず成長し続けるのではないかということも読み取れます。
損益計算書の基礎的な知識である、売上総利益や営業利益を中心に見ていくだけでも、このように企業の実態を知ることができるのです。
<TEXT/KT Total A&C firm>