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日本も他人ごとではない、移民大国フランスが直面する教育問題とは?

ビジネス

教師の「ポイントシステム」が起こす教育問題

12か月

――なるほど。では、教師の配属先はどのように決定されるのですか?

ヴィダル監督:フランスでは教師の“ポイントシステム”によって配属先が決まります。これは、政府や地方行政が使っているシステムなのですが、毎年、教師の経験年数、現学校の勤続年数、教師としてのパフォーマンス、扶養家族の居住地などによって各教師にポイントが加算されます。

 ポイントが高い教師ほど希望の学校へ配属されるので、若くて経験のない教師はポイントが低く、誰も教えたがらない貧困地域の教育困難校に送られます。本来はポイントの高いベテラン教師を派遣すべきなのに……。

 教育困難校に赴任した新米教師の多くは、業務があまりにも大変なため、すぐに転属したがりますが、なかには、ずっとそこで働きたがる教師もいます。というのは、こういった教育困難校の生徒たちは、一旦心を許すとものすごい愛情を教師に注いでくれるから。

公立中学でも強制退学になるフランス

ヴィダル監督

――劇中、問題児のセドゥがベルサイユ宮殿でトラブルを起こし、中等学校を退学になります。日本では義務教育の公立中学が生徒を強制的に退学させることはあり得ないのですが。

ヴィダル監督:実はフランスでは、1日100人もの生徒が退学になっているんですよ! 私も長い間、フランスでこれほど多くの生徒が義務教育の間に退学になるという事実を知りませんでした。

 生徒を退学させた学校の校長は、退学のだいたい1か月以内に転校先を見つけます。しかし、この1か月というのは生徒にとって長い時間なんですよね。この間、生徒はやる気を完全になくしてしまうので、転校先でもまた問題を起こしてしまう……。

 そして、こういった生徒は貧困地域にある教育困難校をたらい回しにされてしまったり、さらに環境の悪い学校へ送られてしまったりすることから、転校先でもほとんどの生徒が素行や学力を改善することはありません。これはフランスで大きな教育問題になっています。つまり、問題のある生徒を学校から排除しても根本的な解決にはならないということです。

――今回映画に出演した経験は、子供たちの人生にどのような影響を及ぼしたと思いますか?

ヴィダル監督:この映画を通して、子供たちは教師の苦労をより理解してくれたと思います。同時に教師たちも、教育の大切さを改めて実感してくれたのではないでしょうか。

 実は、子供たちのなかには「俳優になりたい」と話してくれた子供も数人いたんです。けれども、映画作りは監督や俳優だけではなく、ライター、カメラ、編集など様々な職種があることを伝えたくて、制作チームの各人に子供たちに自分の仕事内容を教えるように頼みました。

 なので、子供たちも撮影をとおして映画の裏方で活躍する仕事について学んでくれたんじゃないかな。この映画が彼らの視野を広げたのであれば本当に嬉しいですね。

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