愛する人と仕事をする意味とは?出版社を営む夫婦に聞いてみた
神奈川県の南端・三崎の出版社「アタシ社」は、編集者ミネシンゴさん、デザイナー三根かよこさんの夫婦2人からなる会社です。
妻・かよこさんが夫・シンゴさんのブログ記事へコメントしたことがきっかけで、さまざまな巡り合わせを経て同社を営む2人。夫婦であり仕事のパートナーでもある間柄ですが、長年付き添い苦楽を共にして見えてくるのはどんなことなのか。
ロングインタビューの第3回目では、本やメディアに関わる仕事を通じて見えてくるお互いの印象や、2人が考える自由に働く意味についてうかがいしました
→インタビュー第1回<神奈川の港町で、若い夫婦が営む小さな出版社ができるまで>はこちら。
実体がある本だからこそ感動や愛着が生まれる
――蔵書室「本と屯」はフリースペースとして誰もが本に触れられる環境ですよね。紙の本の特性だとか魅力ってどんなところでしょうか。
ミネシンゴ(以下、シンゴ):アクセスのしやすさじゃないでしょうか。ここ(事務所兼蔵書室「本と屯」)には3歳の子どもから80歳くらいのおばあちゃんも訪れます。
小さなお子さんでも、お年寄りの方でも紙の手触りや本の扱い方は知っています。紙の本の良さって、全世代の誰もがすぐにアクセスできて、感動できることだと思うんです。
三根かよこ(以下、かよこ):実体がありますよね。ウェブは情報がクラウド上に大量に存在してるけど実体はない。あと使っていて思うのは ウェブはどうしてもつまみ読みが主流なような気がします。
Twitterなどで気になった「記事」を読むためにアクセスする。「記事」が入り口で、事後的に「メディア」を知るということも多い。もちろんメディアありきで訪問を繰り返すパターンもあるとは思うんですけど、とにかく競合も多い。紙の本だと、読者との1対1のセッションなので、可処分時間を費やして没入してもらいやすいとは思います。
ただ「やっぱり紙がいい」とかは思ってないです。今の子どもたちってネットが身近にあってSNSや動画メディアを当たり前のように見たりするじゃないですか。そこに対して「本が一番なんだよ」って啓蒙するつもりはない。あくまで別物だと感じています。
陽のシンゴさんと陰のかよこさん、正反対な2人
――夫婦間ではお互いにどんな印象をお持ちですか。
かよこ:ミネ君は楽観的ですよね。ハッピーでラッキーな人です。私は死とか存在について考えるのが子どもの頃から好きでした。死から逆算して物事を考えるのが普通になってる。本当、陰と陽みたいな感じですよね。
彼は自己肯定感がしっかりあって、自己受容ができてる。その分、他人をちゃんと受け容れることができる。いろんな人を巻き込むことが得意で、それが『髪とアタシ』(シンゴさんが編集長を務める美容文藝誌)の内容にも出てますよね。
書店へ飛び込みで営業するときも、相手の反応がいまいちでも全然気にしないんですよ。私なら『たたみかた』(かよこさんが編集長の社会文芸誌)の説明をしてるときに、相手が興味もなくよそ見でもしてたら、ショックを受けて寝込むと思います(笑)。
シンゴ:僕が太陽だったら、かよこは月。僕は割と早起きで、彼女はそんなに早起きしないし、僕は夜すぐに眠くなるけど、彼女は3日くらい徹夜できるタイプ。全然違いますよね。
かよこはすごく完璧主義で、自分自身の考えを深められる。内省して地下まで掘っていって大事な何かを発見できるタイプ。
性格は本当に正反対だし、それは本づくりにも出てると思いますよ。もしも僕が『たたみかた』の編集長やデザイナーだったら、もっとへなちょこ本になってると思う。「何これ、誰読むの?」みたいなことになってると思うし。