<第8回>穴を見るまえに飛べ!「命がけの跳躍」をするかどうか、それが問題だ――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
(この物語は岩井克人『貨幣論』がもし『トイ・ストーリー』だったら? という仮定のもとに書き進められています)
【第8回】穴を見るまえに飛べ!「命がけの跳躍」をするかどうか、それが問題だ
<登場人物>
リンネル:服の素材に使われる亜麻布のことで、英語で言うとリネン。
上着:新品の1着の上着。
お茶:美味しいお茶。
コーヒー:淹れたてのコーヒー。
人間:商品の所有者。「商品語」ではなく「人間語」を話す。
<前回までのあらすじ>
「金」の代わりとして貨幣の価値を奪った「紙幣」。彼は自らの特製を生かし、紙幣を大量に刷り始めた。それは商品世界を席巻し、混乱へと導いていく。この混乱を逃れるため、リンネルたちは船に乗り込み、「穴」に向かって進むのだった──。
『穴』に向かって船を進めろ!
商品世界の大地を紙幣が覆い、風に舞って飛びかっています。船が進むたびに、リンネルたちの身体に紙幣が叩きつけられ、それをはらうのに一苦労でした。
リンネル「なんで『穴』に行くんだい?」
お茶「この船は夢に出てきた『マルクス』のお告げで作ったって言ったろ?」
カール・マルクス……ドイツ出身の経済学者、哲学者。労働者は資本家に搾取されているとした。主な著書に『資本論』『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』。
お茶「あの『穴』の横にあった立て看板に何が書いてあったか、思い出すんだ!」
たしかに「穴」の近くに立て看板がありました。リンネルはそれに何が書かれていたか、必死に思い出しました。
カール・マルクスが懸命に開けた穴 ──岩井克人
リンネル「!!」
船は懐かしい場所に辿りつきました。すべてが始まったあの場所です。
そこにぽっかりと「穴」が空いていました。
お茶「ちょっと待って、だれか出てくるよ!」
「穴」のなかでなにかが動いているのがわかりました。そして、リンネルたちの到着を待っていたかのように、「それ」は出てきました。
リンネル「だれ……?」
「それ」はリンネルたちの前に現れると、ゆっくりと口を開きました。
人間「こんにちは、人間です」
リンネル「人間……!?」