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評価基準は“美しさ”ではなく“人生のプロセス”。「ミセスユニバースジャパン」が追求する容姿だけではない新しい美の基準

女性の社会的地位の向上をテーマに掲げ、2007年より行われている世界的ミセスコンテスト「ミセスユニバース」。

昨今、SDGsやダイバーシティ実現のため、人の容姿に対する考え方や捉え方に大きな変化が生じている。

“人は見た目が9割”という言葉もある一方、容姿や外見だけで偏見・差別を生んでしまう「ルッキズム(外見至上主義)」が問題視され、これまで学園祭の花形と呼ばれた「ミスコン」にも大きな変革が迫られているのだ。

容姿端麗で外見的な魅力に包まれた人だけが評価され、華やかな世界へと羽ばたいていく。

このような外見重視のミスコンに一石を投じ、新たな美の基準を追求したコンテストが2020年よりスタートしたミセスユニバースの日本大会「ミセスユニバースジャパン」だ。

「ミセスユニバースジャパン」が定義する美しい人は、「容姿」だけでなく「社会貢献への思い」や「行動力」を重視し、どのような人生を送ってきたかという“人生のプロセス”が大きな評価対象となっている。

去る2023年7月7日には、今年10月の世界大会に向けて日本代表を選考する「ミセスユニバースジャパン2023 日本大会」がホテル雅叙園東京で行われ、ファイナリストに残った47人の女性が集結。

年齢も、出身も、生い立ちも異なるさまざまな人生経験を経てきた女性たちが魅せる共創型のミセスコンに迫った。

従来のミスコンとは異なる「すべての女性」に開かれた大会

「ミセスユニバースジャパン2023 日本大会」のファイナリストは、29歳から72歳までという幅広い年齢層の女性から選ばれ、職業に関しても専業主婦や弁護士、歯科医、介護福祉士、DJ、フラワーデザイナーなど多岐にわたる。

まさに多様性に満ちたファイナリストの顔ぶれだと言えるだろう。
また、本大会の大きな特徴として「すべての女性に開かれた大会」ということだ。

従来のミスコンでは、年齢制限や身長制限といった応募基準を設けるのが一般的だが、本大会では20歳以上の女性であれば、年齢や身長、婚姻歴は問わず、戸籍上女性「生物学上男性でも可」でも応募できるものになっている。

さらには、本大会に集うファイナリストの面々は、約半年間にわたるビューティーキャンプを経験。プロの講師から、スピーチやウォーキングの指導を受け、内面・外面の美しさに磨きをかけてきた。

その集大成が「ミセスユニバースジャパン2023 日本大会」で披露されたわけである。

当日はウォーキング、ショーステージ、イブニングガウン(夜会服)、スピーチなどが審査の対象となり、華やかな衣装をまとったファイナリストが優美な晴れ姿を見せていた。

なかでも、自身の経験や夢、ビジョンなどを語るスピーチ審査は、人生のプロセスが評価対象となっていることから、本大会の重要な審査項目のひとつになっている。

ファイナリストが世の中に対し、どのような思いを持って、アクションを起こしてきたのだろうか。

山あり谷ありの人生。スピーチにあふれた「人間模様」

「性別や生き方に悩む人を助けられる自分になりたい」

LGBTQについてSNSで発信する雨松美菜さんは、生まれた頃から性別に違和感を抱き、本当の自分を手に入れるためには、「性別適合手術を受けるのが避けては通れない道だった」と自身を振り返る。

手術を決断するまでに暗中模索の日々が続いたなか、LGBTQの当事者からみて「今の若い世代は、性別適合手術を先急ぐ傾向があり、それが心のバランスを崩す要因になってしまう」ことに触れ、SNSでの情報発信を通して、そうした方へのメンタルサポートをしているという。

「人生最後の時間、あなたはどう過ごしたいですか」

介護福祉士として20年以上の業界歴がある川崎恵子さんは「明治生まれで御年106歳、寝たきり生活のある高齢者の方を、いまでも忘れない」とそのエピソードを語る。

ある日、娘の急逝によって人生の選択を迫られた際に、遺骨へ向かって「家族と暮らしたこの家で、最後まで暮らしたい」というその高齢者の静かな一言が、川崎さんの琴線に触れた。

「自分の本当の気持ちを押し殺し、自分さえ我慢すればいい」と思うのではなく、「自分が思うありのままの気持ちを伝えることで、周りの人の魂を揺さぶり、希望や光となる」ことに気づかされたという。

これからも介護を通して、人生最後の時間を輝かせるサポートをしていくと抱負を述べた。

「人生こんなはずじゃなかった。そんなときでも、ひとかけらの勇気があれば挽回できる」

そう冒頭で語ったのは、弁護士として活動する木坂理絵さん。

12年前の東日本大震災で日常が止まり、収入が激減。
DV被害を受けていたある女性のサポートをきっかけに、離婚弁護士の道へ。

これまで1,000人以上の方をサポートしてきた。

木坂さんは「女性の社会的地位の向上は、一人ひとりが自分の気持ちに正直になり、一歩を踏み出すことから始まる」とし、「私を通して法律をもっと身近に感じてもらい、世界に笑顔があふれるように頑張りたい」とビジョンを示した。

「この世の中で一番守らなければならないのは子どもたちであり、私たちの未来である」

フィリピン出身のシマシャイナさんは、スラム街のストリートチルドレンの実態を説明。
遊ぶことも、ご飯を食べることも、将来の夢を持つこともできない。

毎日の生活で精一杯な子どもたちに対し、シマシャイナさんは「大人になったら何になりたいか」と問いかけたところ、ある少女から「葉っぱを食べればお腹いっぱいになれるうさぎになりたい」という答えに衝撃を受け、11年前から無料の子ども食堂を運営するようになったという。

「あなたが社会にできることは何ですか」

地元である栃木に貢献したいという思いから公務員になった中川真波さん。
結婚、出産、そして育児に追われる日々を過ごすなか、2019年の台風で被災を経験。

変わり果てた街に絶望し、さらには離婚やうつといった苦難も訪れたが、「その時々で家族や周囲の仲間が心の支えになった」と中川さんは言う。

安心して暮らせる街を作り、子どもたちや仲間の笑顔を増やしたい。

一念発起して起業した中川さんは「人は目的地がないと、そこにたどり着くことはできない。だからこそ、自分自身を信じて行動していくことで、自分や未来を変えていける」と語る。

「母親の地位向上のために行動していく」

10ヶ月前に出産した永田まいさんは、足に麻痺が生じ、思うように娘の世話ができなかった経験がある。

「子どもの虐待」というニュースを見て、何かの歯車が狂えば他人事ではないかもしれない。

そう頭によぎった永田さんは、「母親の不安や悩みに社会がまだ寄り添えていない」と感じたとのこと。

自分に何ができるかと考えた末、助産師という仕事にたどり着く。
将来は助産院を開くのが目標だという。

「自分らしく生きられる人を増やし、優しさの輪を広げ、社会と世界を変えていきたい」

開口一番、「人生は失敗の連続だった」と吐露したのは福田よしえさん。
いじめ、うつ、受験、就職、婚活……。

「どうせ私なんて」と思い、自分を否定し続けた自分に、ずっと寄り添ってくれたのが祖母の存在だった。

昨年、祖母を失い、大きく方を落としていた矢先に「ミセスユニバースジャパン」のことを知り、大変な苦労を重ねながらも、少しずつ自分に自信がついてきたのを実感しているという。

「ミセスユニバースジャパン」をきっかけに変わることができた福田さんは、人はいつからでも変われる。自分を変えたいと思う人の背中を押せるような存在になりたい」と話した。

フラダンサーの松田さんがファイナリストの頂点に。「エンタメで神戸を盛り上げたい」

そして、ファイナリスト47名から見事1位の座に輝いたのは、36歳の松田侑希さん。

プロのフラダンサーとして、さまざまなイベントのステージに立つほか、フラダンスショーのプロデュースなども手がけている。

報道陣の囲み取材に対し、「約半年間、ファイナリストの皆さんと一緒にここまで頑張ってきて、その努力が実ってとても嬉しい」とコメント。

決して平坦ではない道のりを進むなかで、辛いときや苦しいときもあったそうだが、「切磋琢磨できる仲間がいたことで、もっと頑張ろうという気持ちになり、一つひとつ自信を積み上げてこれた」と話す。

「ファイナリスト47人の気持ちを背負い、ミセスユニバース日本代表の顔としての自覚を持ちながら、これからの1年間は精一杯活動していきたい」

映えある「ミセスユニバースジャパン2023」の頂点に立った松田さんは、兵庫県・六甲の出身。

生まれた頃から、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた街の再興を見てきたというが、「復興を急ぐあまり、観光よりも衣食住を重視して街づくりされていくような気がして、それをずっと残念に思っていた」と過去を振り返る。

「ファッションビルが次々と取り壊されていったのは今でも覚えている。観光という面においては、大阪や京都に比べて神戸は魅力が少なく、わざわざ立ち寄ろうとする観光客もいない。私がやっているフラダンスのようなエンターテイメントは『人を笑顔』にし、『人を集める』ことができるパワーを持っている。今回の『ミセスユニバースジャパン2023』の頂点に立ったことで、少しでも神戸に立ち寄ってくださる方が増え、人を感動させられるようなパフォーマンスを届けたい」(松田さん)

今後は自分のフラダンスチームを持ち、公演活動をしていく夢も持っているそうだ。

“競争”ではなく“共創”。
美を競い合うだけでなく、人生のプロセスを評価する。

社会的意義を問う「ミセスユニバースジャパン」は、女性の可能性を広げ、挑戦を後押しするコンテストだと言えるのではないだろうか。

<取材・文/古田島大介>

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