大手テレビ局Pが語る「情報は怖い」の真意。人の命に影響が出ることも
海上保安庁の元日本人スパイから直接聞いた話をベースにした暴露系情報小説『FOX 海上保安庁情報調査室』が2022年5月28日に発売された。著者の川嶋芳生さんは現在50代で、某大手テレビ局のプロデューサーをしており、当書は海上保安庁関係者などに長い年月をかけて取材し、フィクションという形で世に発表した意欲作である。
前半は小説執筆の動機や海上保安庁という職業について川嶋さんに話を聞いた。後半は著者の本業「テレビ局プロデューサーの仕事内容」や「踏み込んだ小説の中身」について話を聞いた。
炎上に注意しながら報道する大変さ
――コロナ禍によって報道プロデューサーとしてのお仕事は変わりましたか?
川嶋芳生(以下、川嶋):コロナ禍でもリモートワークできない職種なので、あまり変わっておりません。飲み会がまったくなくなった時期があり、それで執筆作業がはかどったというのはあります。
――下手なことを報道するとSNSに書かれたり……。
川嶋:そうですね。危機管理の定義が時代とともに変わってきてますよね。常に「この言葉はこう変えましょう」という感じに、日々更新して言っていたます。
過激な報道は自重する場合も
――いままで過激すぎて報道できなかったことはありますか?
川嶋:多々ありますね。しかし、そのスクープがどれだけの価値があるかによって判断するかになると思うんですけど、そのネタを報道することによって傷つく人がいるか? 企業や農家、団体にどのような影響を与えてしまうか? を考える必要があります。情報提供者の立場も十分考えなければなりません。
仮にある情報がとある役所の3人しか知り得ない場合に、メディアにスクープされてしまうと、情報を漏らしたのは3人の中の誰かだ、と分ってしまいます。するとだいたい目星がついてしまうんです。そうした時は、その情報が10人以上に出回ったあとに発信すれば、ネタ元、つまり情報的強者を守ることができるわけです。
人との縁が切れてしまう場合は考えます。出禁になってしまったりすると情報が入って来なくなるので、出してしまうかお蔵入りか迷うことは多いです。
――なかなか難しいバランスなのですね。小説の内容も「社会の裏側」を描いてますが本当に日本で起きてることなのでしょうか?
川嶋:脚色している部分ももちろんありますが、本当にあった話でいうと、北朝鮮の工作員に駅のプラットフォームから押されて落とされそうになったり、背中がスースーするなと思ったらカッターナイフのようなもので、切られていたりという、脅しのようなものは実際にあったようです。
プラットフォームで、工作員が後ろから声をかけて振り向きざまにバランスを崩させて、押すというやり口ですね。実際には落とされなかったそうですが、ある種の威嚇ですね。