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「鬼滅」効果で利益予想を6割上回った東宝。映画業界で“一人負け”状態なのは

ビジネス

 4回目の緊急事態宣言により、映画館は時短営業を余儀なくされました。8月2日に緊急事態宣言は東京都、沖縄県から神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府へと拡大。不要不急の外出自粛が求められています。

TOHOシネマズ ©Nagahisa_Design

 新型コロナウイルスは、飲食店やホテル、航空、旅行会社など広い範囲にわたって影響を与えました。そして深刻な打撃を受けているのは映画や舞台も同じです。上映、上演が中止または延期されたり、観客数や営業時間が制限されることによって興行会社は業績が急悪化しています。

 国内の映画配給大手東宝、東映の2021年2/3月期の売上高は25%前後減少松竹はコロナ前のおよそ半分ほどにまで落ち込みました。では、映画業界大手3社東宝、東映、松竹の業績を詳しく見てみましょう。

東宝の強みは興行収入

 大手3社の事業展開は非常に似通っており、映画を主力としながら、映像作品の販売、ミュージカルや演劇などの舞台制作、不動産賃貸業を行っています。売上高は東宝が圧倒的に高く、コロナ前の2019年2月期の売上高は2462億円で、2位の東映と1000億円以上の差をつけています

 東宝は映画事業だけで東映全体の売上高に匹敵するほどの力があります。東宝は2003年4月にシネコンを展開していたヴァージンシネマズを103億円で買収しており、東宝のスクリーン数は702スクリーン、松竹269スクリーン、東映218スクリーンと、圧倒的に引き離しているのです(共同経営含む)。

 配給のほか、膨大な数の映画館からの興行収入が得られることは、東宝の強みのひとつとなっています。大手3社の業績推移を見てみましょう。

営業赤字で苦しむ松竹

映画業界

各社業績推移(単位:百万円)※決算短信より筆者作成

 コロナ禍の2021年2月期、東宝は224億4700万円の営業利益を出しました。これだけの映画館を抱える中で黒字化ができたことは、驚異的といえます。

 そもそも東宝の映画事業はいくつかに分かれています。上映を行うTOHOシネマズなど映画興行事業では11億円の赤字(前年度は149億4800万円の黒字)を出しました。しかし、『天気の子』のDVD売れ行きが好調でパッケージ事業収入が前期比14.7%増、『呪術廻戦』が人気のアニメ製作事業収入が同26.5%増するなど別の事業が損失をカバーしました。

 一方、配給などの映画営業事業は公開延期が相次ぎましたが、『鬼滅の刃』の大ヒットにより、64億7800万円の営業黒字化に成功、さらには高収益体質の不動産事業がトータルの決算を下支えしたのです

 東映も2021年3月期が26億円の黒字(前期比77%減)のなか、大手3社の中で唯一営業損失を出したのが松竹。京都アニメーション製作の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』などがファンから高評価を得られたものの、ソフト販売やCS放送事業で損失の穴埋めができず、映像関連事業全体で27億6100万円の赤字(前年同期は22億3700万円の黒字)となりました

 映像事業に加えて、歌舞伎座、新橋演舞場などの古典芸能も大苦戦。演劇事業の売上高は前年同期比74.4%減の73億1700万円で、42億6800万円の赤字(前年同期は7億4200万円の黒字)を出しました。不動産事業で53億7900万円の黒字(前年同期比6.6%増)を出し、損失を補填しましたが、その大きな穴を埋めきることはできませんでした。

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