歩行者の安全は対象外?「あおり運転」厳罰化の盲点を弁護士に聞く
師走を迎え、2019年を振り返る番組が放映される時期になった。話題になったものはたくさんあるが、そのひとつが「あおり運転」である。
2017年に起きた東名高速道路での追突事故(夫婦2名が死亡)では、原因が悪質な「あおり運転」にあったとされている。この事故以降、各都道府県警は危険運転への摘発を強化しており、2018年の摘発数は2017年の1.8倍に及ぶそうだ。
メディアの報道によれば、あおり運転にはさらなる対策も検討されている。警察庁の意向もあり、来年の通常国会で道路交通法が改正され、罰則が強化される可能性が高いことが報じられた。
侵され続ける歩行者の便益
ところで、今般話題になっているのは、自動車が他の自動車に対して危険なあおり運転をすることに関してである。横断歩道や、狭い道路の路側帯ぎわで見られる、歩行者へのあおり運転に関する議論は進んでいない。
車両同士の場合とは異なり、車両が歩行者に衝突した場合、重大な被害を受けるのは十中八九以上の割合で歩行者の側である。したがって道路交通法は本来、弱い歩行者の便益を最大限保護するように定められていなければならないはずだ。
そもそも、消防車や救急車、公共交通機関であるバスなどと違って、マイカーは公益性に乏しい。そんなマイカーに対しても歩行者は、高度成長期以来、「天下の往来」の中央部分を明け渡すことを余儀なくされていった。歩行者にとってのモータリゼーションというのは、あまりにも一方的な形でやってきたものだったのである。
「歩行者をあおる」ことへの対策は?
そのうえ横断歩道でも「オラオラ」系のドライバーにあおられるとなると、心情的にも、道義的にも、とても納得のいくものではない。「自動車をあおる」際の罰則が強化される反面、「歩行者をあおる」ことへの対策が空っぽだとしたら、著しい不均衡を感じてしまう。
“歩行者の権利”はどの程度保証されているのか、弁護士・公認会計士の資格を持つ後藤亜由夢さんに聞いてみた。
「道路交通法は1960年の施行以来、交通事情の変化により改正されていった経緯があります。今回は自動車同士の“あおり運転”が社会問題として捉えられたため、改正が議論されているわけです。仮に今後、歩行者へのあおり運転が頻発し、社会問題になった場合には、道路交通法の改正により重罰化される可能性もあるでしょう」(後藤弁護士)