「痴漢」依存症になる、普通の大卒サラリーマンたち
精神保健福祉士・社会福祉士として約20年にわたり、さまざまな依存症の治療に携わってきた大森榎本クリニックの斉藤章佳さん。
クリニックで勤務するかたわら全国で依存症関連の講演や執筆活動を精力的に行っています。著書『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』の中では、依存症の問題には“認知のゆがみ”が根底にあるとしています。
今回、斉藤さんにそんな認知のゆがみとどう向き合うべきか、話を聞いてみました。
「つらい」「死にたい」と言っていい
――斉藤さんは執筆活動や学生に向けた薬物乱用防止教育などの講演をなさっています。主にどのようなことをお話されているのですか。
斉藤章佳(以下、斉藤):小中学校、高校、大学で講演活動を行っています。いつも伝えているのは「自立した大人になるには助けを求められる人になり、弱さをオープンにできる人になろう」と言ってます。私たちには人間やコミュニティ、社会などグチを言えたり、「ツラい」「しんどい」「死にたい」と、自分の弱さをオープンにできたりする関係性や場所が必要です。
子どもが「死にたい」と言ってきたとしたら、親や先生は「そんなこと考えちゃダメ」「あなたは恵まれた環境にいる」と倫理観や道徳で説き伏せてしまいがち。でも、相談した当人は「なぜそう思い、感じたのか」を聞いてほしいんです。親御さんとか先生方には、子供たちを頭ごなしに否定せず、なぜそう思ったかをちゃんと聞いてほしいと伝えています。
私たちの世代は人に助けを求める教育を受けていません。気合と根性の精神論や、我慢を教えられてきた。今の子どもたちには、困ったときにちゃんと周りにSOSを出せる大人になってほしいですね。
痴漢加害者は、妻子持ちの大卒サラリーマンも多い
――教育が変われば、依存症をめぐる現状も変わっていくかもしれないということですね。著書では痴漢のような性犯罪、万引きのような窃盗罪を依存症として捉えていました。
斉藤:まず痴漢ですが、世間で認知されている痴漢のイメージと現場での実態があまりにも乖離していると感じました。一般的に痴漢のような性犯罪の加害者像は性欲のモンスターや、非モテの冴えない見た目の男性と思われがち。
でも、実際にクリニックを訪れる痴漢の加害者は、四大卒のサラリーマンで妻子持ち、見た目もごく普通の人が多いのです。
――被害者の実態はいかがでしょうか。
斉藤:被害者の実態もよく知られていません。加害者は大人しそうで泣き寝入りしそうな人物を狙う傾向があって、その象徴のひとつが制服を着た女子学生です。学生時代に痴漢に遭う女性が多いのはそのためです。彼らは「制服は従順の象徴である」と言います。
被害者にも「みんな被害に遭っているんだから、私だけ声を上げるのは恥ずかしい」気持ちが働いて、声を上げられない。それで痴漢され続けて泣き寝入りを繰り返すうちに、自己肯定感は削られ、「自分は痴漢されても仕方ない人間」という思考パターンに陥ってしまう。