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10年以上売れ続ける商品とは?デザイナー・安積伸が語る「長く価値を生む仕事に必要なこと」

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長く売れ続けるプロダクトには、どのような共通点があるのでしょうか。ウォーターサーバー「FRECIOUS dewo(フレシャス・デュオ)」は、2014年の誕生以来、日本のウォーターサーバー市場に「暮らしに調和するデザイン」という新たな基準を打ち立て、10年以上にわたり愛され続けています。

2026年3月25日(水)、dewoの後継モデル「dewo ii(デュオツー)」が発売となりました。今回、シリーズのデザインを手がける世界的なプロダクトデザイナー・安積伸氏にインタビューを実施。販売元の富士山GXホールディングス株式会社取締役副社長・溝内竜士氏も同席のもと、変化の激しい現代において「長く価値を生む仕事」をするための秘訣を、若手ビジネスパーソンへのメッセージとともに聞きました。

無意識な“ちょうどよさ”を実現する設計

――今回、10年ぶりの刷新となる「dewo ii」では、機能を厳選したと伺っています。その意思決定のプロセスについて教えてください。

富士山GXホールディングス株式会社取締役副社長・溝内竜士氏

溝内:お客様のニーズに合わせて本当に必要なものを追加しています。弊社では定期的にお客様アンケートを実施し、そこで特にリクエストが多かった要素を反映させました。

 具体的には温度帯の拡充です。従来の温水(80℃以上)では粉ミルク作りには熱すぎるという声に応え、70℃の「エコ温水」を搭載しました。また、冷水と温水を混ぜて使っている方が多かったことから、「常温水」の機能も追加しています。

――デザインの面ではどのような工夫がなされているのですか?

幅広いシチュエーションに馴染むデザインの「dewo ii」

安積:デザインの専門用語で、認知心理学を応用する「アフォーダンス」や「シグニファイア」という概念があります。人間の行動を無意識に導く設計のことです。例えば、給水口の位置をユーザーが迷わないよう、ファサード(正面)に縦一直線の意図的なラインを入れています。

溝内:ユーザーが立った状態で上から見ると、注ぎ口は直接見えませんが、そのラインがあることで、そこにコップを置けば水が注がれる、ということを自然に認識させるようになっているんです。私たちも安積さんから説明を受けて初めて、その緻密な配慮に気づかされました。

安積:ボタンの配置も同様です。一般的にシンプルにするにはボタンを減らすことを考えますが、今回、あえて「冷水」「温水」「常温水」など各機能に専用ボタンを割り振っています。2回、3回と操作を重ねるより、ワンアクションで目的を達成できるほうが、生活の中の行動としてはストレスを感じないはずです。寝ぼけているときをはじめ、さまざまなシーンでもパッと使えますしね。

――ユーザーに寄り添ったデザインと機能性を両立した“ちょうどよさ”を感じます。

安積:ありがとうございます。“ちょうどいい”という状態は、実は作り手の努力によって実現されています。家電製品は配慮の塊です。どこか一カ所でも不具合があればストレスになりますが、逆に配慮がうるさく目立つのもよくありません。ユーザーが何も考えず、当たり前のようにそこにある状態を目指して、細部を徹底的に調整しています。

――デザイナーの視点で、10年以上支持されているものに共通する「売れ続ける理由」は何だとお考えですか?

安積:理由は大きく分けて3つあると考えています。

 まずは、エポックメイキングな技術革新とインパクト。製品が世に出た瞬間に、「よくここまでやったな」と思わせるような強いファーストインパクトがあることです。

 次に、使い勝手と環境への調和。人間の生活の中に自然に入り込み、実際にユーザーが得られる恩恵があることです。

 そして、使うことによる楽しさ。その道具によって、ユーザーの生活が楽しくなるような価値をもたらすことです。これらの要素がバランスよく収まっていることが、長く愛されるための条件ではないでしょうか。

 プロのデザイナーとしては、こうした要素を網羅していなければなりません。私自身、長く使われることに価値を見出すタイプですので、今回のモデルも、以前からの固定客の方が「バージョンアップしたから次もこれにしよう」と思ってくださって、誰かにすすめたくなるような、そんな使う喜びを感じてもらえると信じてデザインしています。

プロとして「長く価値を生む」ための要素

――最後に、これからのキャリアを築く若いビジネスパーソンに向けて、仕事で長く価値を生み続けるためのアドバイスをお願いします。

プロダクトデザイナーとして活躍する傍ら、法政大学デザイン工学部システムデザイン学科教授も務める安積氏

安積:私は現在、大学でも教えていますが、ビジネスが世の中に定着するためには「クリエーション」「テクノロジー」「マネジメント」の3つがそろうことが不可欠だと伝えています。

 デザインが良くても、作れなければ意味がない。作れても、売る力やサービス体制がなければ広がらない。この「三位一体」のバランスを意識することが、プロフェッショナルとしての第一歩です。

溝内:私からは、受け手の視点を持つことの大切さを伝えたいです。仕事には必ず受け手がいます。それは外部のお客様だけでなく、社内の次の工程の担当者かもしれません。安積さんが人間工学に基づいて徹底的にユーザーが快適に感じることへ執念を持って考え抜いているように、自分の仕事の先にいる相手が価値を感じてくれるかどうか、そこを徹底できる人が、長く信頼されるのだと思います。

 安積さんは今回の「dewo ii」でも、人間工学に基づいた設計を徹底されています。お客様が価値を感じるためにはどうすればいいか、受け手の顔を思い浮かべて細部まで執念を持ってやり遂げる。その積み重ねが、結果としてお客様からの信頼や愛着につながり、シリーズが長く支持される要因になっているのだと感じます。

安積:そして何より大切なのは、最初から「長く愛されるものを作りたい」という気持ちを持つことです。偶然ではなく、最初からそこを狙い、細部まで配慮し尽くす。プロダクトを通じてユーザーの生活が豊かになり、愛着を持って長く使ってもらえることの喜びを想像しながら仕事をすることが、結果として、長く価値を生むことへつながっていくのだと思います。

文・写真:bizSPA!編集部



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